豪州ヘッジファンド・マネージャーから見た日本とそのゾンビ企業

オーストラリアのヘッジファンド経営者であるジョン・ヘンプトン(John Hempton)が、自身の有名投資ブログBronte Capitalで、共に金融危機を経験した日本と韓国を比較している


まず彼は、日本経済史を黒船襲来から説き起こしている。そして、日本の家計、とりわけそれを支える女性の高い貯蓄率が、重工業の発展に必要な投資を支えたのだ、と説明している。彼によると、その構造が金融危機を経た今も残っているため、ゾンビ企業(具体名として東芝富士重工川崎重工業を挙げている)が生き永らえているのだという。


彼は、日本の金融危機の経過を以下のようにまとめている。

  1. 銀行が多額のまずい融資を行なった。最初は重厚長大産業に、次に不動産関連(ゴルフコースや百貨店に)に。
  2. 融資の返済は滞る。
  3. 金融システムが資金に困ることはない。というのは、日本の主婦(伝説的なミセス・ワタナベ)がひたすら貯蓄に励んだため、銀行に預金が集まり続けたからである。
  4. ミセス・ワタナベの貯蓄はゼロ金利になっても続き、増加し続けた。
  5. ゼロ金利と大量の資金余剰のお蔭で、銀行は借り手の不動産業者ならびに産業の大企業に対し、債務状況を詳らかにさせる必要は生じなかった(特に大企業に対しては)。すべては先送りにされた。
  6. 大企業の雇用も縮小することは無かった(東芝だけで25万人の雇用を抱えている)。経済はその生産性の高い労働力を、恐竜のような産業と恐竜のような百貨店チェーンに塩漬けにし続けた。
  7. 経済は停滞したが、主要銀行が破綻することはなく、銀行に多額の補助金が注ぎ込まれることはなかった(危機の間に破綻した銀行――大部分は地銀だった――の数は、金融危機の深刻さを考えれば多いとはいえない)。


これに対し、韓国では銀行にそのような資金の余裕は無かったため、金融危機の際には金融システム自体が駄目になった。その際、死んで当然の企業だけではなく、生き残って然るべき企業まで倒れた。そのため、韓国企業はかなり割安となった。それがその後の株価の急回復につながった。


対照的に、日本の場合は、もう少し創造的破壊が起きるべきだったのに起きなかった。そのため株価が急反発するような投資機会が無かった、というのがヘンプトンの見方である。


最後にヘンプトンは、次の二つの質問を投げ掛けている。

政治的な質問
実体経済に大きな痛みを与えることなく創造的破壊を起こすにはどうしたらよいか?
投資上の質問
今後20年間で、米国、および世界の中で、韓国のような羽目に陥って最良の投資機会を提供するのはどこか? そして、20年間不況に苦しんだ挙句に凋落していくのはどこか?


こうしたヘンプトンの日本ならびに日本企業に対するシビアな見方は、池田信夫氏らのいわゆる構造改革主義と通じるものがあるように思われる。