大前研一のニュースのポイント

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若い世代に資産を譲ること自体が景気刺激になる

2009年04月07日 | ニュースの視点
22日、自民党の津島雄二税制調査会長は、「スムーズな世代間の資産交代をやることの中から、新しい需要を喚起していく可能性はある」と述べ、贈与税の軽減策について追加経済対策で検討する考えを明らかにした。

また麻生首相も、高齢者から若い世代への資産の移転を促すために、住宅取得や自動車購入などを条件としつつ、数年間に限った贈与税の減税について検討する価値があると述べた。

麻生首相の見解を聞いて、私が提唱している「心理経済学」に近い発想だと感じた人も多いようだが、私自身は「似て非なる」考え方だと感じている。

私は住宅取得や自動車購入など条件をつけずに相続・贈与税の免除を進めるべきだと思う。

というのは、相続税や贈与税を免除してもらうためにお金を使わせることが景気を刺激するのではなく、若い世代に資産を持たせること自体が重要だからだ。

若い世代の人がお金を持っていれば、あれこれ言わなくても勝手にお金を使ってくれるだろう。

だから、数年間限定で構わないので特に条件などは設けずに「相続・贈与税」の免除を実施するのが最も効果的だと思う。

また、根本的に税制度を公平かつ中立なものにするという意味においても、私は相続・贈与税をゼロにするべきだと考えている。

その代わりに、固定資産税のように資産価値そのものに課税にすれば良いと思う。

これは、固定資産であれ金融資産であれ、「資産」を持っている人に課税するという考え方だ。

例えば、現在は金融資産への課税では、利子など保有資産から生じる所得に対してのみ課税されるが、金融資産を1千万円保有しているなら、その1%に当たる10万円を課税対象にするのだ。

相続や贈与が行われる場合にも、相続や贈与に対して課税するのではなく、「資産」を受け継いだ人が税金を支払うことにする。

かつて西武鉄道グループの元オーナー・堤義明氏が、日本中で43兆円分の土地を保有していた時代があった。

しかし43兆円分の資産を保有していても、それは課税対象ではなかったため税金はゼロだった。私には公平な課税制度とは思えない。

例えば、43兆円の資産に対して1%を税金対象とし、納税額は4300億円。もしそれを支払いたくないなら土地を手放してください、という方が余程公平で中立だろう。

そもそも、創意工夫をすると税金を払わないで済む方法があるということ自体、税制度としておかしな話だと思う。

今、自民党の中で議論されている景気刺激策では、考えるべきポイントが間違っている。

年配の人がいち早く資産そのものを若い世代に渡し、同時に資産をどのようにマネージしていくかを教えるという構造が理想だ。

それを作り出すために何をするべきかという点について、心理経済学の立場からアプローチして欲しい。

そして根本的に税制度として重要なポイントは何なのか、という点についても考え直してもらいたいところだ。

5 コメント

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アイデアとしては面白いが (ななし)
2009-04-09 08:21:31
富裕層は抜け道探しそうだ。別の形に資産を変え海外に流出するオチかもしれない。部分最適で終わる可能性もある。バブル崩壊の引き金になった総量規制と同じようなインパクトにならなければよいが。効果の検証がひつようだ。
なぜ税金を払ってないの? (ななしB)
2009-04-11 08:25:18
43兆円も土地資産が有ってどうして固定資産を払わないでいいのか判らないです?
大前さん教えてくださいませんか?
若い世代 (のり)
2009-04-20 22:17:23
若い人が金を持つと、経済的停滞が解消されるほど、金を使うでしょうか?
リーマンショックが日本の景気後退だと、メディアでさえ叫ぶ昨今ですが、内需に頼れなくなった企業が、外需に頼っていたため、今度は外需までも落ちたため利潤が出ないだけのこと…。要するに、世界中で物を買わなくなったから、金本来の役割が低下しているわけです。 私は、物質的な価値感が根底から変換しつつある時期の停滞だと思っています。つまり、若い人は金を持っても、ものは買わず、貯蓄に回すと思ってます。理由は簡単です。金を払ってまで、欲しいものが無いからです。大切な問題は、人類共通の価値のある地球環境に対する、一貫したエネルギーの変換を決めて、それに則した物を世界中で、製造と消費を構築することが、突破口だと思います。
良いと思います (ななし)
2009-04-25 10:56:23
少子化対策としても有効だと考えます。
金銭的な理由で家庭を持たない若い世代は多いです。結婚していても、養える自信が無いため子供の数を増やさない、あるいは子供をつくらない、そういう時代です。資産が当てにできるなら、少なからず良い影響になるのではないでしょうか。
人口減をくい止めることは、日本の未来を考える上で最も重要なことだと考えます。
一部疑問があります (Unknown)
2009-05-22 13:05:12
贈与税、相続税の減税は、若い世代への富の移転になると思いますが、若い世代間での貧富の差が拡大すると思います。また贈与、相続により70~80代の世代からその子供たちの世代である40~50代に富が移転したとしても老後のための貯蓄に充てられる可能性が高いと思います。
少子化対策も視野に入れ、20~30代に富が移転し、かつ同一世代間で貧富の格差が拡大しない(機会の平等が奪われない)施策が望まれます。

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