原油価格論争(投機が原因or否):再訪

CBSの60ミニッツを見ていたら――いえ、話題のこのインタビューではなく、今週の水曜深夜にTBS「CBSドキュメント」で放映していた1/8付けのこの報道――、昨年の原油価格高騰は投機によるものか否か、について検証していた。
このテーマは、実は拙ブログのそもそもの立ち上げのきっかけであるが、昨年半ばの経済学者たちの間の論争では、投機が原因では無い、というクルーグマン等の意見が優勢なまま話が下火になっていった。しかし、今回の60ミニッツでは、決定的な証拠は提示されなかったものの、いくつかの状況証拠から、やはり投機が原因だったのではないか、と報告している。


具体的には、原油価格の高騰は需給によるものだった、という説への反論として、60ミニッツは以下の点を指摘している。

  • 昨年夏に、JPモルガンのローレンス・イーグルスが投機は原油価格高騰に影響していない、と議会証言した一方で、その議会証言と同じ日に、当のJPモルガンから顧客に「莫大な投機資金が原油価格を押し上げた」というメールが送られた。
  • 9月22日に原油価格は一日で25ドルも跳ね上がったが、そのような突然の大幅な上昇をもたらす供給上の要因は存在しなかった。元CFTC高官のマイケル・グリーンバーガー*1も需給だけではこのような価格の上昇は説明できないと述べている。
  • エネルギー情報局の統計によると、2007年第4四半期から2008年第2四半期にかけて世界的に供給は増加した一方、需要は減少している。
  • 7月15日から11月末までに、約700億ドルが商品先物市場から引き上げられ、原油価格は100ドル以上、75%も下落した(ちなみにリーマンもAIG原油市場に大きく投資していた)。しかしその間のガソリン需要の減少は5%に過ぎない。


なお、クルーグマン原油価格高騰は投機が原因では無い、と結論したのは、投機マネーはあくまでも先物市場を動かすだけで、現物価格には影響しない、という前提に基づいていた。それに対し、60ミニッツは、投資銀行が現物に影響を与えたかもしれない、という以下の傍証を挙げている。

  • 米国最大の石油会社は、ある意味ではモルガンスタンレーである。油田や精製所やガソリンスタンドこそ持っていないが、SECへの提出文書によると、卸売業界でのキープレイヤーになっている。現物を子会社等を通じて売買するだけではなく、2000万バレルの貯蔵能力を保有している。たとえばコネチカット州ニューヘーブンに保有する貯蔵施設では、ニューイングランドの暖房用石油市場の15%近くをコントロールしている。
  • ゴールドマンサックスも、カンザス州コフィービルの精製所と43,000マイルのパイプラインと150以上の貯蔵施設を持つ会社と深い関係にある。
  • 両社のアナリストは昨年の原油価格高騰に一役買った。ゴールドマンの石油アナリストは昨年3月に1バレル200ドルまで上昇すると予測し、モルガンスタンレーは150ドルを予測した。
  • 両社とも60ミニッツのインタビューを拒否すると同時に、石油ビジネス部門とトレーディング部門は完全に分離しており、どちらの部門もアナリストへの影響力はない、と主張。確かに違法行為の証拠は無い。
  • だが、そもそも価格操作の証拠をつかもうと思っても現状では制度的に不可能。というのは、当局が各社の売買ポジションのデータを持っていないため(連邦法がそうした情報を入手する権限を与えていない)。


番組はさらに、2000年に原油先物市場の規制緩和が行なわれたのはエンロンのロビー活動の成果であること、および、その後発生した西海岸の電力価格高騰が彼らの価格操作によるものだったことを指摘し、そうした価格操作のノウハウを持つエンロンの元トレーダーたちが、今回の原油価格高騰に一役買った可能性を示唆する。


カリフォルニアの電力危機の時にはいち早く価格操作の可能性を指摘し、エンロン崩壊によってその主張が正しいことが裏付けられたのはほかならぬクルーグマンだったが、ひょっとすると今回については、クルーグマンが石油トレーダー側にしてやられたのかもしれない。

*1:この人についてはこのエントリ参照。