アマゾンなどで販売開始しました。

 拙著『雇用大崩壊』がネット書店で販売を始めました。

 目次

 第1章 「二段階不況」の日本

 第2章 経済の現状に対する,五つの誤解を解く

 第3章 漂流する若者世代

 第4章 正社員の憂鬱

 第5章 今こそ金融・財政政策の総動員を

 第6章 雇用回復への処方箋

 おわりに 〜真の「大きな政府」と格差縮小を目指して〜


 いままで書いた著作の中で一番わかりやすく平易な言葉で語ったものです。世界金融危機の中で進行する高失業への不安、派遣切り、非正規雇用の増大など、雇用問題全般について、どう考えたらいいのか。いままでの短期的な失業問題に加えて、より解決の難しい諸問題についても考えを深めるように書いたつもりです。

 どうかよろしくお願いします。

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

回転しているナイフをとるか(不況入ったばかりか)、ずっと落ちてるナイフをとるか(不況にはまったままか)?


 なんだかんだで寝ないで、「クルーグマン問題」=なぜクルーグマンが、いまのアメリカでインタゲよりも財政により比重を置いた発言をしているのか? を考えてしまった 笑。


 で、本当に「雑談」として聞いてほしいんだけど。あとで訂正して終わるかもしれないので。


 この「クルーグマン問題」のヒントは、いま世間を騒がせているポール君とグレッグ君のだんだん感情的になってきた論争がヒントだった。それも肝心のポールじゃなくてグレッグ、つまりマンキュー先生の発言が僕には「クルーグマン問題」の解答じゃないか、と思えてきた。


 マンキュー先生の整理によれば、いまのアメリカは不確実性が増加して、予備的貯蓄が増加している段階。だから平均消費性向を低下させ、他方で限界消費性向を高めた経済状況。ここポイント。


 さてそんなアメリカ経済の状況を頭においてみると、今度は財政政策の効果はどうなんだろうか? つまり財政乗数は通常の場合よりもいまのアメリカの不況局面では大きいのか小さいのか? 答えは、限界消費性向が高いほど乗数の大きさもより大きくなる。だから通常よりも財政政策の効きが大きくなるというもの。


その点では、マンキュー先生も、そしてオバマ政権下でいまや財政政策の守護神になったかのように(もちろん彼女のペーパーをみれば金融政策も超重要視してますよ。両方やれば効き目倍増といってるだけ*1)頑張っているクリスチャン・ローマーCEA委員長の発言(財政政策は効果てきめん)をその点で支持している。


ローマーの場合は、流動性制約を考慮しての発言だが、恒常的所得仮説を修正して一時的な財政政策の効果がてきめんにあらわれる理論的フレームとしては一緒だ。


 問題は繰返すが、乗数の大きさがいまのアメリカは並よりもでかい、と考える点で、オバマ側のローマーと、どうみてもオバマに冷たいマンキュー側が一致していることだ。そして財政政策がいまのアメリカで効果てきめん路線の中に、もちろんクルーグマンもその代表でいるってこと。

 
 クルーグマンが例の「復活だあぁぁぁぁ」論文で、財政政策の効果てきめんに現れる経済として想定していたのは次のようなものだったはずだ。


定量的な問題はこうだーー一時的な財政刺激は、永続的な効果をもてるんだろうか? もし現時点の収入が支出に強い影響力を持てるならーーつまり限界支出性向(消費+貯蓄)がある程度の期間にわたって本当に1より大きくなるくらいの影響を持つならーー複数の均衡点が存在しうる。すると流動性の罠は低い水準の均衡点で、十分に大きな一時的財政拡大は、経済をどやしつけて、その均衡から追い出し、伝統的な金融政策がまた機能する領域に持っていけることになる」。


 クルーグマンはこの財政効果てきめん経済(複数均衡の低位にある状態=限界支出性向高い経済)とする資格が日本経済にはない、と指摘していた。他方で(ローマーの大恐慌分析に注意を払いながらも)30年代のアメリカはそうであった可能性を指摘してもいる(「十字の時」。でも復活の方はやや否定的かな)。


 つまりクルーグマンは、財政効果てきめん経済としていまのアメリカ経済を上のような視角からとらえているんじゃないのかな? もっともみんなには悪いけれども、僕はクルーグマン学者じゃないんで、彼の発言を丁寧にフォローしているわけじゃない。その上で、低位均衡経済としていまのアメリカを考えている材料を、クルーグマンの発言から拾う作業は手付かず。例えば下に書いたけど、日本との比較でやはり気になるのは、政府債務の規模、貯蓄ー投資構造など、またあとは政策の実現可能性とか、そこらへんも補強しないと、「クルーグマン学」としてはまずいでしょうね。


 もちろん日本が財政政策効果てきめんでない理由なども考察しないと話は終わらない。でも日本のケースについては眠たくなったのでまたいつか 笑(ちなみにそれは政府債務の規模にかかわってくる。クルーグマンじゃなくてバーナンキについて本にも書いたけど。あとここでエントリー題名ともからむんだけど、日本はいろんな意味で90年代後半の段階で、十分に不況を長期化しすぎたんだよね。予備的貯蓄効果の急減ぽくみえる現象とかも。そこがいまのアメリカとの決定的な財政政策効果の差じゃないのかな。ああ、あとクルーグマンの方は面倒な構造的貯蓄超過問題もか。まあ、またそういうのもまた今度


 結論だけ先に書くと、アメリカは不況に入ったばかりで財政政策が強く効くラッキーな状態、だから一回すごいのをかます。財政のビックプッシュがいいわけ。これにしくじるとどうなるか、そこがクルーグマンオバマ政策への批判点にもなる。この財政のビックプッシュに失敗したのが、日本の90年代前半。


 対して日本は財政のビックプッシュに失敗して小出し戦略を採用してしまった。不況は長期化してしまい、政府債務の累増などもろもろの理由で財政政策が効きにくい状況が現出した。そんな感じかな……。

(追記)hicksianさんも夜明かし組ですな 笑。hicksianさんの書いたhttp://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20090305#p1の追記部分以下が重要でしょうね、クルーグマンは変わらずと。
で、僕の今日のエントリーは、政策的な現実性から財政政策の優位を説いたというよりも、むしろ経済状況の差で説いたというものでしょう。

 

*1:彼女の大恐慌論をまとめたこの論文http://elsa.berkeley.edu/~cromer/great_depression.pdfをみればわかるように、アメリカは金融政策の効果だけで脱出、日本は財政も金融もやったのでいち早く脱出とある