中岡望の目からウロコのアメリカ

2009/2/27 金曜日

急激に悪化するユーロ圏経済:共通通貨ユーロ危機説も

Filed under: - nakaoka @ 1:18

最近の世界経済の情勢を見ていると、文字通り、日を追うごとに悪化している感があります。アメリカではオバマ政権が史上最大の規模の景気刺激策を発動することが決まりましたが、実際の効果が出てくるのは先になるでしょう。また景気刺激効果を疑問視する見方も根強あります。そうした批判に対してオバマ大統領は「なにもしなければ確実に景気は悪化する」と、大規模な財政出動の必要性を説いています。アメリカ経済の悪化は、日本と同様に輸出依存で成長してきたユーロ圏ににも深刻な影響を及ぼしています。イギリス経済は壊滅的な状況に陥り、ドイツ、イタリア、スペインも厳しいリセッションに陥っています。各国とも懸命に景気刺激策を講じていますが、即効は期待できないでしょう。その中で共通通貨ユーロも危機に直面しているという指摘もあります。今回はユーロ圏の経済見通しとユーロ問題を分析してみました。

金融危機はニューヨークで始まったことから、当初、ユーロ圏に与える影響は限定的なものに留まると見られていた。しかし金融危機は思った以上の力でユーロ圏を直撃している。ドイツはアメリカ経済や世界経済の落ち込みで輸出の急減に直面している。ドイツに次ぐ経済規模を持つフランス、イタリアも急激な景気後退に見舞われている。

2月13日にEU統計局が発表した2008年第4四半期のGDP統計は、ユーロ圏がリセッションに陥っていることを明らかにした。統計が発表される直前、ECB(欧州中央銀行)の幹部は「第四四半期のユーロ圏のGDP統計は“壊滅的”なものになる」と漏らしていたが、その予想を超える厳しい結果となった。

ユーロ圏15ヵ国(イギリスは入らない)の第4四半期の成長率は前月比でマイナス1・5%であった。これは年率に換算すると6%に近いマイナスになる。アメリカの第4四半期の成長率は年率でマイナス3・8%であったことと比べると、ユーロ圏はアメリカ経済よりも悪化しているといえる。

ユーロ圏の成長率がマイナスになったのは1999年のユーロ導入後、初めてことである。統計の継続性の問題はあるが、このユーロ圏の落ち込みは第二次世界大戦以降、最悪であると言われている。EU統計局は「ユーロ圏全体は2008年第4四半期にリセッションに突入した」と認めている。

2009年の見通しも厳しい。2008年12月のユーロ圏の工業生産高は前年同月比で12%と大幅な減少を記録している。こうした傾向は年内を通して続くと見られている。IMFが1月28日に発表した予想では、今年のユーロ圏の成長率はマイナス2%である。2008年の成長率が1・0%(IMFの推定値)であるから、一気に3ポイントも成長率が低下することになる。ECBのエコノミストの調査では、2009年の成長率はマイナス1・7%とIMF見通しより若干良いが、ユーロ圏の経済成長が大きくマイナスになることに変わりはない。

既に予兆は見られる。ユーロ圏の12月の生産高は前年同月比で12%と大幅な落ち込みを記録している。また在庫投資の積み上げもあり、今年の第1四半期の成長率もさらに落ち込みは拡大するのは間違いないだろう。
ユーロ圏の経済成長の足を引っ張っているのがドイツ経済の落ち込みである。ドイツの第4四半期の成長率はマイナス2・1%で、ユーロ圏で最大の落ち込みを記録している。フランスのマイナス1・2%、イタリアのマイナス1・8%、ベルギーのマイナス1・3%をはるかに上回っている。15ヵ国外のイギリスもマイナス1・5%と低調であったが、ドイツほどではない。ドイツの第4四半期の落ち込みは、東西ドイツの統一以来最大のものであった。

ドイツ経済が他の国を上回る落ち込みとなった理由は何であろうか。ドイツ経済の成長パターンは日本と酷似している。ドイツは国民性を反映して貯蓄率が高く、内需の伸び悩みを輸出で埋める成長パターンを作り上げてきた。日本と同様に巨額の貿易黒字を計上し、輸出と企業の設備投資に支えられて2007年は2・5%の成長を達成している。こえは先進国の中ではイギリスの3・0%と肩を並べる高成長であった。しかし、世界金融危機でアメリカを初めとする市場の低迷で、輸出が急激に減少している。

輸出の減少で企業受注は大幅に減少し、2008年の受注高は前年比で25%も減少している。この結果、企業は設備投資を先延ばし、機械類などの資本財の生産も大幅に落ち込んだ。自動車販売も不振を極めている。2009年の国内自動車販売台数は前年比で約7%の減少が予想されている。自動車の販売不振は部品業界だけでなく、工作機械などの資本財企業にも影響を及ぼしている。金融危機の影響は他の国と比べれば比較的軽微であったが、製造業は他の国以上に大きなダメージを受けている。消費者は雇用不安も抱え、貯蓄を増やしており、個人消費の増加は期待できない。そのためドイツ政府は500億ユーロの財政支出と減税を織り込んだ景気刺激策を発表している。しかし、IMFは2009年のドイツ経済の成長率はマイナス2・5%と前年1・3%(推定)を一ポイント以上低下すると予想している。財政刺激策の効果も期待できそうにない。

またイタリアは膨大な財政赤字を抱え、景気刺激策の発動が思うに任せない状態にある。イタリアは2008年通年でマイナス0・6%とユーロ圏の中では経済状況は最悪であったが、2009年はさらに落ち込み幅は拡大し、マイナス2・1%成長にまで落ち込むと予想されている。イタリアの公的債務残高は2008年末でGDPの105%に達し取ており、国債のイールドも急速に高まっている。トレモンチ蔵相も「財政支出を増やして需要を喚起できるが、イタリアはそれができない」と、財政刺激策を講じるのは困難であると認めている。フランスもマイナス1・9%と同様にさらに大きく落ち込むと見られている。

この結果、各国の失業率は急速に上昇している。ドイツの1月の失業率は8・3%で、失業者数は349万人に達している。ユーロ圏で最も失業率が高いのがスペインで、14%を超えている。フランスも8%を超えている。EU委員会は、ユーロ圏の今年の失業率は10%を超えると予想している。

こうした情勢を背景に各国は財政刺激策を講じているが、思ったような成果を上げることは難しい。そうした中でECBの利下げ期待が高まっている。ECBはベンチマーク金利を昨年10月の4・25%から2009年1月に2・0%にまで下げている。しかし、2月5日の政策決定会合では利下げを見送っている。ただ経済情勢が予想を上回る悪化を見せたことで3月に利下げに踏み切るとの観測が強くなっている。ただアメリカのFRBが政策金利を0%から0・25%に引き下げたにもかかわらず景気刺激効果が見られないように、ECBの利下げがどこまで景気を支えるか疑問である。

とすればオバマ政権のような大規模な財政刺激しか対応策がないことになるが、EUは「安定成長協定」によって各国政府に財政赤字の対GDP比率で上限が課せられている。イタリアやギリシャなど既に大きな財政赤字を抱える国は対応できない状況にある。

各国の経済情勢が異なり、政策発動の制約となっていることから、統一通貨であるユーロの存続を危ぶむ声も聞かれ始めている。ハーバード大学のマーチン・フェルドシュタイン教授は「ユーロは金融危機を生き延びることができるのか」という刺激的なタイトルの記事を寄稿している。その中で金融危機が続き、景気低迷が長引けば、ユーロから離脱しようとする国が出てくるかもしれないと指摘している。すなわち現在の協定のもとでは財政発動もできず、また金融政策はECBに委ねているために通貨増発もできない。同教授は、経済苦境に陥った「国は金融を緩和し、通貨を切り下げる誘惑に駆られるかもしれない」と指摘する。ECBは各国の利益に叶う共通の金融政策を発動することができるのか。さらにECBが“最後の貸し手”としての役割を果たせるのかどうか疑問を提起している。すなわち銀行が危機に陥った時、中央銀行に資金がない場合、ECBが必要な資金を貸してくれるのかというわけである。

ユーロが導入されたのは1999年。それから10年が経過しようとしている。今までは順調に経済が成長を遂げてきたことで制度的欠陥が表面化することはなかった。ユーロが生き延びるためには、この挑戦に応えなければならない。

4件のコメント »

  1. スペインの失業率は、中南米・東ヨーロッパからの合法移入労働者(移民?)の
    失業増加を考えた場合、実際に二桁になるのかデーターがないのではっきり言えません。

    コメント by satoco gracia — 2009年2月28日 @ 01:40

  2. 最新の発表では失業者の約三分の一は外国人だそうです。(スペイン)

    コメント by satoco gracia — 2009年4月25日 @ 15:49

  3. NY Times で良い記事を見つけました。現状把握にどうぞ。

    http://www.nytimes.com/2009/04/25/world/europe/25migrants.html?_r=1&hp

    コメント by satoco gracia — 2009年4月25日 @ 20:49

  4. 今日の発表では同居している家族全員が失業している家庭はスペインの8%だそう。

    コメント by satoco gracia — 2010年12月4日 @ 18:08

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