小野善康『景気と国際金融』

田中秀臣氏のhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20081226は、ぼくにとって気分の悪いエントリーなので、正直いってリンクを張りたくなかったのだけど、ここで書かれている小野善康『景気と国際金融』岩波新書に関する記述は、なんかぼくの記憶と違う気がしたので、同書を読み返しはじめた。すると、やはり、ぼくには田中氏の理解は、正反対の気がしてきた。それで、もっと同書を熟読しなきゃ、と思うと同時に、数理的にもきちんと把握すべきだろうと感じて、
Ono, Y "International Asymmetry in Business Activity and Appreciation of a Stagnant Country's Currency" (JER 2006)
を併せて読み始めたんだけど、完全理解には時間がとてもかかる。田中氏本人があとできちんと確認する、と言っているから、それを待てばいいのだろうが、「群馬の研究室」に田中氏が行くのが仮に年明けの講義開始あたりだとすれば、それまでの長い間、小野さんの仕事に関する間違った知識がさらされ、流布してしまう。田中氏のブログを読んでいる人が、必ずしも継続読者だけとは限らないので、いくら注記に「僕の誤解釈の可能性があるので」と書いてあっても、間違った記述のところが印象に残ってしまうかもしれず、このようなエントリーが書かれた発端はぼくにあるので、それで小野さんには申し訳なく思い、速報として、これを書いておく。もちろん、ぼくは、田中氏の言及についての理解を間違っているかもしれないが、本からの引用しかしないので、小野さんの理論についてはご本人の記述そのものである。
田中氏は、

いま素朴な観察によれば、明らかにドル円レートでとりあえずみておくと、円高ドル安に触れると株価はほぼ下落基調になる(不安定に変動する)。これはかなり長期に観察できる現象になっていて、(ここは素朴な観察とはかぎらないが)しかもアメリカと日本の政策金利の水準ではなく金利の方向性に反応しているようだ。これは日本がデフレ方向に引張られていくとみてもいい。ところが小野開放体系では、

と現状についての田中氏の認識を書いている。そして、小野さんの本のついては、

ところが小野開放体系では、確か円高ドル安になれば株は上昇してしまう。いや、株だけでなく物価水準だったかな。円高ドル安傾向が定常的な(定常的かどうか、ここ曖昧)インフレ状態と確か共存してしまうんじゃなかったかな。これってまったく現実と適応してないように思うんだよね。

と、小野さんが全く現状と反対のことを主張している、と読めるような評価をしている。

では、小野善康『景気と国際金融』にはどう書いてあるか。まず、わかりやすい図表のほうを。

小野善康『景気と国際金融』p65 図表2・7
[日本]
          →デフレ→日本製品の円価格下落→
低い消費意欲→不況                 →国際競争力不変→慢性的不況 
          →低金利円高進行      → 

で、同じページの前後に、文章として、以下がある。(ここで、「現在」とは、刊行時の2000年頃) 。

現在、米国は好況にあり、高い消費水準を維持している。そのため失業率も低く、物価はインフレ気味に推移するとともに、利子率も高い。他方日本では、不況が続いて消費水準も低迷しており、全体の完全失業率は4%から5%の間を推移して、米国を上回っている。(中略)。こうした状況下では、賃金も下がり気味で、利子率も低い。また、米国の金利が日本の金利を上回っているため、為替市場のストック調整による円高ドル安傾向が続き、円資産の不利を補っている。
 このとき、日本の物価上昇率は米国よりも低いため、為替レートが変化しなければ、日本製品が相対的に安くなっていく。したがって、日本の国際競争力が、徐々に米国のそれを上回ってくるはずである。ところが、これと同時に円高が進むために、日米の国際競争力は変化せず、そのまま日本では不況が、米国では好況が続く

 「ネタ」であって、「あとで確認して間違えてたら」訂正するのであれば、ネットという公の場でどんな風に人の仕事を貶してもいいのかどうか、ネット初心者のぼくにはわからないので、こんなことをするのは余計なお世話になるかもしれないけど、小野さんの名誉のために、とりあえず速報で書いておいた。

景気と国際金融 (岩波新書 新赤版 (660))

景気と国際金融 (岩波新書 新赤版 (660))