朝日新聞朝刊「昭和恐慌に学べ」

 おお! 朝日新聞の神谷穀記者の記事、これいい! いまの世界金融危機を回避したり、今後の世界経済の動きを考える上で、昭和恐慌や大恐慌期の教訓を活かすべきだとする趣旨の記事。特に保護主義への台頭が資源や市場の争奪戦を招く、という指摘は重要。ここでもとりあげたけれども保護主義を主張する勢力は多いから。コメントをうけた三人の面子もいい。岩田規久男先生、安達誠司さん、若田部昌澄さん、といった面々である(旗幟鮮明)。

 安達さんのコメントを引いておきましょう。

麻生首相が重んじる財政支出の拡大も、金融政策が緩和に向かわなければ、金利上昇圧力がかかって円高を誘う」「昭和恐慌のように再び誤った政策を採るリスクが台頭している」と指摘しています。昭和恐慌も井上準之助蔵相が円高誘導で恐慌を悪化させた教訓からです。

 いまの日本は財政政策も中途半端、金融政策は現状ではまったく受動的な立場をほとんど変更しておらず、日本の長期不況入りへのカウントダウンを待っているような状況。

 神谷記者の文章も有意義なので引用(本文では金の足枷の存在なども適確に指摘しています):「大恐慌・昭和恐慌の前後もグローバル化の時代だった。第一次世界大戦の賠償にあえぐドイツは米国の資金で支えられていたが、大恐慌で米が資金を引き上げて深刻な不況に。世界に波及し、ファッシズム台頭のきっかけとなった」そして保護主義が台頭し、資源と市場の簒奪をめぐってやがて「国益」を掲げた戦争に突入していったわけである。

 これは僕の意見だが、保護主義の台頭と植民地政策が日本の場合は完全にシンクロしてしまい、それが大恐慌を世界でいち早く脱出したにもかかわらず、そのようなマクロ経済政策の成果を顧みず(テロで黙殺)、日本が世界でいち早く保護主義と戦争の時代に突入していった、というわけです。まさに奇妙なイデオロギーこそ危機の時代にもっとも用心すべきことだと思います。

今日もお酒飲まない:雑感

 切込隊長へのきちんとした応答というわけではなく、雑感として読んでね。

 不況という現象では、もともと赤字経営で非効率的なところが真っ先にドタバタ倒れている、ということですが、これ必ずしもそうじゃないところが面倒なところです。

 なぜ面倒かというと学術的にではなく現象的にいえば、不況のときに個々の企業の赤字、黒字、効率、非効率を云々することは簡単にいえばど〜でもいいことで、そんなことに注目する前にとりあえず火事を消せ、というのがここ数十年の学術面ではなくいま目の前で繰り広げられている現象面の出来事です。

 それができないところは火事の延焼はなかなかやみません。いまも太平洋の向こう側で議会と政府・FRBを中心にそのど〜でもいい企業の効率・非効率の判別をめぐっての対立があります。

 それでは上記を踏まえたうえで、面倒なところも多少みてみます。赤字で非効率なところだけが都合よく淘汰されるのかといえばぜ〜んぜんそうじゃなくて、むしろ旧態依然としたところが生き残る、というのが学術的ではなく現象面での出来事でした。

 これ裏を返せば、新しいことやるところが中々現れない、ということでもあります。つまり経済全体としてだんだんヘタって行く(非効率になる)ということなんですね。これ不況が深く長いとそういう感じになりまして、これが上手い具合に??赤字で非効率的なところが真っ先に潰れていない証拠にもなるわけです。

 どこかで代謝が狂っているんだけれども、自分は健康食品だけとりからだに悪いものは摂取していないと信じて、次第にへたっていくことに似ています。赤字で非効率なものだけどんどん倒れればいいのですが、そうなっていないというのが多くの実証(=現象の証明)が示すところでした。

 赤字で非効率的なところが真っ先に倒れるというのはまあそんなにおかしいことではないように思えますが、そういう見方は実は不況の一面しかみていないわけです。

 これも現象面ですが、そのような非効率的なところを淘汰する「だけ」に不況が役立つならば、恐らく多くの人はそれに気が付き、不況をそのような赤字で非効率的なところが真っ先に潰れる政策として利用するでしょう。

 ところが上でもいいましたが、効率性を高めるかもしれない新規参入者も淘汰というか門前払いしてしまう、というのも不況の見逃してはいけない重要な点です。

 あとはじめから非効率で赤字の企業がまっさきに潰れないということもいえまして、いろんな手段を駆使して生き残りをするんですよね。すると社会全体のリソースがただでさえ縮小しているのに、そういう悪あがき?にリソースが利用されることで、新規参入者や既存の黒字で効率的な企業が利用できるはずのリソースも食われる。

 民間でも赤字で非効率なところがまっさきに倒産することを回避する方法はいろいろありまして、そういうダメなところがまっさきに悪あがきを始める、という見方もできるわけです。うんで、不況が始まったときにはそんなに赤字でも非効率的でもなかったところが民間でできる悪あがきゲームに乗り遅れて、いつのまにかおじゃんになってしまう番がまわってくることも四六時中観察できることです。

 ここからは再び「経済全体」という話になりますが、そういうただでさえ縮小している経済のリソースを、既存メンバーで食い合うというますます貧しい展開になるというのが、不況の面倒なところでして、民間でこれを防ぐいろいろな対策が実はないのではなく(いま指摘したように)あるので! 逆に「経済全体」では非常に面倒っちいことになるわけです。こういう面倒っちいことは、僕はマクロ経済政策で対処するべき、と思っていますが、なかなかこれは一部の人にはイマージナルな行為?に見えるようで、そこらへんは投機家であり、またマクロ経済学者でもあったケインズ卿のような人こそいまの時代に求められるのではないか、と思う次第です。