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2008年12月14日日曜日

差し押さえバトル絵巻 サブプライム問題は結局何処へ向かうのか?


不良資産救済プログラム(TARP)で議会が承認した7000億ドルの使い道に関して、議会と財務省の間に亀裂が走っています。財務省の威信は地に墜ち、ハンク・ポールセン財務長官とニール・カシュカリ次官補は「危機を回避したヒーロー」から「なにトンマな事やってんだっ!」と罵声を浴びせられる対象へと成り下がっています。
その顛末は月曜日にUPされる『ダイヤモンドZAiオンライン』の記事の方に書くとして、今日はTARPから拠出された銀行への資本が、何故ちゃんと融資にまわっていないのか?そしてそれがちゃんと融資に回らないとどんな不都合があるのか?について書きます。
議会がTARPをOKしたときは、その7000億ドルを使って「有毒廃棄物」と化した住宅ローン関連証券を直接財務省が買い上げるという了解がありました。しかしこの案は「けっきょく、複雑すぎて、幾らで買えば良いのか、よくわからんし、準備も間に合わない」ということでアッサリ断念され、「その代わり銀行の増資を引き受けることでイッパツで金融危機を回避しよう!」と話がすりかわってしまったのです。
その時のポールセン財務長官の言い分は「銀行にエクイティーを注入すれば銀行はそれをタネ玉として、5倍も10倍もレバレッジをかけて融資を増やせる。だからこの方法の方が効率がいいんだ」というものでした。
しかし現実にはお金を貰った先から銀行はすぐに流動性の毀損した住宅ローン関連証券を損金計上しているので新しい資本のかなりの部分は右から左へ「蒸発」しています。残ったお金も今後の損金計上のために温存しておかなければいけないので融資へは回っていません。
つまりTARP資金で銀行にエクイティー注入するアプローチは銀行の延命には役に立ったけど、それ自体は病根の抉り出しにはぜんぜん役立っていないのです。傷口が放置されている以上、ばい菌はどんどん広がります。
証券会社のレポートによれば米国民のマイホームの保有者の7人に一人はローンが払えなくて差し押さえによる強制処分の憂き目に遭うと試算されています。強制処分の入札セールになるとその物件は市場価格より3割から5割も安い「バナナの叩き売り」みたいな値段で処分される場合が多いそうです。すると同じ町内に「来月フォークロージャー・セールをやります!」の看板が立つと、その町内の物件は一切、売れなくなってしまうそうです。そりゃそうです。1ヶ月待てば半値で買える物件が出てくるからです。
しかし差し押さえ物件の強制処分は銀行にとっても極めて不利です。なぜなら強制入札は物件価格を押し下げるし、それが相次げば住宅ローン証券の「妥当価格」も急落するからです。昔ならマイホームのオーナーが月々の支払いに困ったら、銀行はリスケジュールなどの方法で「当面、払えるだけ払って、あとは状況が良くなってから返してくれ」などと交渉し、差し押さえにまで持ってゆかないというのが賢いやり方でした。(差し押さえになると結局損するのは銀行ですから。)
ところが住宅ローンの証券化商品というのが近年出回っており、銀行は住宅ローンを貸したら、すぐそのローンを転売してしまうことが習慣化したのです。毎月のローンはサービサーによって集金され、その集金されたお金は束ねられ、輪切りにされた証券化商品のプールにそれぞれ仕分けして送られます。つまり日々マイホームのオーナーとコンタクトを持つ窓口は銀行ではなく、ローンのサービサーなのです。
さて、ローンのサービス契約ではサービサーは集金したとき、ないしは差し押さえになったときにフィーを貰えるようになっています。でも「この借り手は毎月の支払いに四苦八苦しているから、リスケジュールしてあげた方がいいな」という事は余計な心配であり、そんな親切心を出してもサービサーの成績にはならないのです。いや、むしろ集金が滞りはじめたら、フォークロージャーに追いやるインセンティブが働いてしまいます。
また良心を出してリスケジュールをしようとしたサービサーが住宅ローン証券投資家から訴訟されるという事例も最近出ました。「勝手に利回りが下がるような真似をしないでくれ」というわけです。でも本来、住宅ローンというのは長いアメリカの銀行業の歴史では大体、1.5%から2%程度の金利マージンしか無い商品だったのです。それをサブプライム・ローンにして、括り直して輪切りにしただけで、利回りが10%以上になり、しかもトリプルAになるなんて、そもそもそういう思い込み自体が幻想だったにもかかわらず、未だその商品設計段階の規定利回りに拘泥しているおつむの弱い投資家が居る訳です。
従ってこの問題はなかなかほぐそうと思ってもほぐしようがありません。そうこうしているうちにここ数年のヴィンテージの住宅ローンは5割以上が焦げ付いているという絶望的な報告も入り始めており、今後さらに銀行の増資に政府が応じても、そのキャピタルはすぐ焦げ付きの穴埋めに費消されてしまうのではというのが深刻な懸念になりつつあります。
「もうゴールドマン出身の連中で財務省が仕切られるのは懲り懲り!」
そういう雰囲気になっているわけです。だからゴールドマンが「銀行」に転換した後で「とりあえずネット銀行でお茶を濁す」と発表したとき、「アイツらは何て空気が読めない傲慢なやつらなんだ」と議員さんも国民も目が点になったわけです。要するにゴールドマンが必要なのは保身のためのキャピタルだけであり、店舗を構えて中小企業やマイホームの購入者の役に立ってゆこうという心構えがぜんぜん感じられなかったところに米国民がキレたわけです。
さて、話が脱線しましたが、住宅ローンの問題をほぐす「切り札」は個人破産法の改正です。窮地に立たされたマイホームのオーナーがテキパキと個人破産を宣言し、すぐリスケジュールし、しかも持ち家を強制執行できないようにする、、、そういうアイデアを既に議会は考え始めています。

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