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Microsoftよ、今こそYahoo!を買うときだ

» 2008年11月20日 11時34分 公開
[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 ジェリー・ヤン氏はMicrosoftから逃げられないように見える。だが、同氏のYahoo! CEO辞任のニュースは、短期的にはMicrosoftの同社買収を阻害する要因になる。

 新CEOが任命され次第、同氏が以前の役職「Chief Yahoo!」に戻ることが11月17日に発表され、Yahoo!の株価は同日終値が10.63ドルとなり、18日の昼の取引で12ドル超まで上昇した(このブログの掲載時点の株価は11.35ドル)。MicrosoftがYahoo!(の一部または全体)を買収すべきだとすれば、それは株価が低い場合に限られる。わたしは10月10日に、Yahoo!の株価下落を理由にMicrosoftの同社買収についての立場を「賛成」に変えた。その後、若干の上昇を見せたYahoo!株価は再び下落しており、18日現在の株価水準では、Yahoo!買収は10月10日時点よりもっと理にかなっている。ヤン氏のCEO辞任のニュースそれに伴うYahoo!株価の上昇がなければ、買収はさらに理にかなうものだっただろう。

 先週末のこと、居間に行ったら、妻が有料映画チャンネルの1つで「歌え!ロレッタ愛のために」を観ていた。ちょうどパッツィ・クラインの歌「アイ・フォール・トゥ・ピーセズ(I Fall to Pieces)」がかかっていた。今日、この記事の準備をしていたとき、その歌詞が頭の中で繰り返し流れた。「フォール・トゥ・ピーセズ」(ばらばらになる)は、今まさにわたしが予想する今後のYahoo!の姿だ。わたしは10月にこう書いた。「Yahoo!はファイアセール(焼け残り品の処分セール)ですらない。今やエステートセール(遺品の処分セール)だ」。Microsoftはただちに買収に動くべきだ。目を付けた一部資産だけ買い取るのもよいし、丸ごとでもよいだろう。

 ヤン氏は、Microsoftが2月1日に発表した446億ドルの買収提案を受け入れなかったことで、永久に非難されるだろう。この提案は、Yahoo!の買収価格を1株31ドルに設定していたからだ。だが、今になって考えるとこの条件で身売りすべきだったという意見は、近視眼的だ。9月中旬以降の世界的な経済危機を考えると、この条件での買収は、双方にメリットと同じくらいリスクをもたらしていただろう。Yahoo!株主は現金とMicrosoft株を手に入れただろうが、そうした買収でYahoo!の状況が本当に好転していたかどうかは疑問だ。

 わたしが今、Yahoo!買収がMicrosoftにとって理にかなっていると考えるのは、景気が落ち込んでいることが大きな理由だ。その前提は買収価格が適正なことで、わたしは1株12ドルまでなら払ってもよいと思う。12ドル以下なら、MicrosoftはYahoo!を丸ごと現金と株式で買収し、借金をせずに銀行に預金を置いておけるとみられる。では、なぜ今が買収の好機なのか。

新興企業の低迷

 経済危機は、以前は強力に見えたWeb2.0新興企業を直撃している。レイオフがいたるところで行われており、つぶれた新興企業もある。こうした中、人々は信頼できるブランドを使いたいと考える。Yahoo!は数々のブランドを持っており、Microsoftはその信頼を裏付けることになる。経済危機で新興企業は落ちぶれ、信頼あるブランドのサービスがより強くなるわけだ。

Googleの躍進にブレーキ

 一方、強大な勢力となったGoogleも、もはや順風満帆とは言い切れない。2007年11月6日に740ドルを超えたGoogleの株価は、今日は290ドル程度で推移している。Googleの富は減少しており、景気後退が広告支出にどのくらい悪影響を与えるかはまだ未知数だ。Googleは検索分野で依然として強さを発揮しているが、突然、弱さを抱える大企業に様変わりした。

競争の緩和

 経済危機はMicrosoftに、大掛かりな統合プロジェクトに挑む時間を与えている。競合他社が景気悪化で打撃を受け、MicrosoftのAzure Platform Servicesがいよいよテストに入っていることから、Microsoftは市場を奪われる心配なく、Yahoo!の統合を行うことが可能だ。

リストラが容易

 企業は買収に伴う統合の際、好ましくないとされるさまざまなことを大手を振って行える。実際、企業がそうした際にレイオフなどを実施するのは珍しいことではない。これらの施策は通常なら株主やウォール街の懸念を招く恐れがあるが、買収に伴う統合時には容認される。

貴重なYahoo!ブランド

 Microsoftは検索市場シェアやデータセンターの観点からYahoo!に期待するかもしれないが、景気低迷時にはブランドの方が貴重になる。人々はWebベースサービスを使うのをやめはしないが、サービス選択が厳しくなるからだ。パーソナルコンテンツやビジネスコンテンツを、明日閉鎖するかもしれないようなサービスに預けたがる人はいない。Yahoo!は世界で認知されているブランドであり、人々はYahoo!ブランドを信頼しようとするだろう。数段落前に述べたように、Microsoftがその信頼を裏付ける。Microsoftが店じまいするとは誰も思わない。MicrosoftはYahoo!買収で新規ユーザーを何百万人も獲得できるだろう。しかし、景気の低迷がいつまでも続くわけではないため、様子見をするのはリスキーだ。

 こうしたブランドは、オンライン上の不動産だ。Microsoftはそれらのおかげで、広告掲載や検索サービス提供の媒体となる資産を増やせる。例えば、Flickrにどれだけのブランド価値があるかといえば、プライスレスだ。そこに保存されている膨大な写真はすべて、投稿者にとって個人的な意味があるものだからだ。意味は形を持たないかもしれないが、商品の一部として販売できる。Yahoo!はFlickrを十分に活用していない。Getty Imagesとの提携も近視眼的なものだった。Yahoo!はFlickrを、ユーザー主導のストックフォト(写真レンタル)サイトにするよう取り組むべきだった。借り手がオークションで料金を決める方式が取れるだろう。MicrosoftがYahoo!の一部事業だけを買収するとしたら、Flickrはその中に含まれるはずだ。

 一方、買収後のブランディングは難しい。Microsoftの経営陣が、Yahoo!のブランドをWindows Liveに包含したいと考えるのはほぼ間違いない。しかし、それは間違いだと思う。Yahoo!は強力なグローバルブランドだ。買収したサービスの(すべてではないとしても)大部分は、「Microsoft-Yahoo!」を冠する方がいいだろう。買収相手を立てるブランディングの格好の参考例がHewlett-Packard(HP)だ。買収から何年も経つのに、Compaqブランドがいまだに使われている。またHPは、市場が大きく重複する競合他社を買収する場合のモデルケースでもある。

 改めて強調すると、Yahoo!のブランドには貴重な価値がある。グローバルリーチと膨大なユーザーを持つ同社サービスのブランドに、1株10ドルか11ドル分の値打ちがあるのは確かだ。MicrosoftがYahoo!に買収を持ち掛けていたときに狙っていたのは、データセンターインフラや検索シェアだったが、今の時点ではそれらはボーナスのようなものだろう。わたしはMicrosoftの最初の買収提案に異議を唱えた。Yahoo!はMicrosoftにとって、1株31ドルも払うに値しなかったからだ。しかし、1株12ドル以下でなら買収する価値がある。

MicrosoftとYahoo!に取引の意思はあるか

 問題は、Microsoftに買収の意思があるか、Yahoo!に売却の意思があるかだ。取引が成立した場合にのみ、Yahoo!の事業群が今のような姿で存続する可能性がある。取引が行われなければ、Yahoo!がばらばらになるのは必至だ。Yahoo!のサービスは取締役会にとって、生かされないまま放置しておくには貴重過ぎる。企業乗っ取り屋として知られる大富豪のカール・アイカーン氏とその仲間が取締役に名を連ねているのだからなおさらだ。Yahoo!は切り売りされ、売却金額の合計は、丸ごと売却された場合よりも大きくなると思う。しかし株主は、それまで待てないかもしれない。1株31ドルでの買収が破談となった後、株価の下落を目の当たりにして胃が痛くなるような思いをさんざんしているからだ。Microsoftから1株12ドルでの買収提案があれば、特にそれが株式と現金によるものであれば、朗報ということになる。Microsoftは資産を有効に活用すると考えられるからだ。Yahoo!ブランドが維持され、経済危機が小規模なWeb2.0新興企業を痛めつけ続ければ、だが。

 Microsoftの買収意欲は以前ほど強くはない。まず第一に、Microsoftのプラットフォーム&サービス部門の担当社長だったケビン・ジョンソン氏が同社を去っている。ジョンソン氏は、最初の買収提案の主要な立案者の1人だ。しかし、同社が買収に動く可能性は依然としてあるとみられる。Microsoftの経営幹部は否定するばかりだが、それはそうするしかないからだ。わずかでも買収が行われる気配があれば、Yahoo!の株価が上がってしまう。Microsoftにとっては、行動したり話したりしないのが最も得策だ。割安な買収価格を提示しても歓迎されるほど、株価が値下がりするのを待つというわけだ。

 また、Microsoftの経営幹部は、買収に関して決して一枚岩ではなかった。2月時点でMicrosoftの経営幹部のうち、Yahoo!買収計画を積極的に推進し、同社を傘下に収めることでGoogleに対する競争力強化に弾みがつくと考えていたのは、ごく一部にすぎなかったというのがわたしの見方だ。大部分の経営幹部は、買収計画を承認したものの、その目的は彼らとは異なり、Yahoo!を市場から強制退場させることにあった。現在、Microsoftの経営幹部は世界的な経済危機を踏まえて、買収計画の経緯を的確に評価しようと試みている。彼らが注目するのは株価だ。このところの株安を考えると、MicrosoftはYahoo!買収に著しく過大な金額を投じずに済んだことになる。だが、これでは見落としてしまうことがある。つまり、買収が成立していれば、Microsoftは、ライバルのWeb2.0企業の後退や脱落を尻目に、Yahoo!との統合の最難関に挑戦できていただろう。そうした状況にあるWeb2.0企業にはGoogleも含まれる。Microsoftは今ごろ、オンラインビジネスで攻勢をかける態勢が整っていただろう。

 Yahoo!は新CEO探しを進めており、候補者が浮上し始めている。17日にAll Things Digitalのカーラ・スウィッシャー氏は、ケビン・ジョンソン氏の名前を挙げた。ジョンソン氏がYahoo!を買収し、その経営に携わろうとしていたのは明らかだ。だが、これからYahoo!を経営してMicrosoftに売却し、古巣に戻る気があるのだろうか。

 MicrosoftとYahoo!は早急に取引をまとめる必要がある。さもないと、二度と取引の機会はないかもしれない。交渉は秘密裏に行わなければならず、リークは許されない。Yahoo!の取締役会は、自社がいわば国境に守られていない国であり、貿易ルートは断たれていることを理解する必要がある。Yahoo!の領土には誰でも侵入してくるだろう。この国は全面降伏するか、あちこちの土地を手放すことになるかのどちらかだ。Yahoo!がMicrosoftから1株31ドルに近い価格で買収されることはないだろう。15ドルでも同様だ。もしリークがあれば、本格的な交渉が進められていても、買収は必ず頓挫してしまう。

 Microsoftについて言えば、Yahoo!をめぐる現在の混乱した状況の元凶は彼らにある。彼らは今こそ収拾に当たってはどうか。Yahoo!が弱体化しているのは、Microsoftの敵対的買収計画が失敗したからだ。だが、Yahoo!は依然としてGoogleの関心を引き付けている。Yahoo!ブランドはまだ威力があり、貴重だからだ。Microsoftは、Googleに高い価格を付けられ、買い負けることを心配しなければならない。米国の監督機関や独禁当局は、GoogleのYahoo!買収を絶対に認めないだろう。しかし、GoogleがYahoo!の一部事業を買い取ることや、Yahoo!に資金を出して同社の一部サービスをGoogleのサービスに置き換えることはあり得る。こうした形でYahoo!資産の買収が行われるのは確実だ。問題は、それがいつ、誰によって行われるかだ。

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