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中国の 「58兆円内需拡大策」 フォローアップ 2

「58兆円内需拡大策」の関連情報が増えて、少し様子が分かるとともに、「老婆心」 もいささか湧いてきました。


                 中国の 「58兆円内需拡大策」 フォローアップ2


  「58兆円内需拡大策」の関連情報が増えてきました。


1.財政支出の中身について

  伝えられた4兆元の対策は投資分だけの数字であり、増値税減税 (1200億元) や増値税輸出還付率引き上げなど3000億元の減税は外枠であった。
  また、4兆元のうち中央財政の直接投入は1兆1800億元、その他は地方・民間など関連投資を見込んでいることが記者会見で発表された。4兆元のうち新規分(前倒し含む?)は2.5兆元との民間アナリスト推計がある。
   本年末までの第4四半期に中央財政から1000億元の直接投入を行い、これによる関連投資分を併せ4000億元の需要創出を見込む由である。(ちなみに、発展改革委は記者会見で 「1000億元追加投資の準備は6月以前から着手されており、準備は整っている」 ことを明らかにした。やはり、景気減速はかなり早くから警戒されていたのだ。)

年末までの1000億元の具体配分先

 低所得層向けなどの住まい対策   100億元
 農村のインフラ、民生対策       340億元
  *うち水利部関係で合計      (200)
    うち 「南水北調」 事業       (20)
      大型治水事業         (70)
      飲料水安全確保        (50)
 鉄道・道路・空港等重点インフラ   250億元
 医療衛生・文化教育事業       130億元
 省エネ・環境保護対策         120億元
  *うち汚水処理・ゴミ対策      (50)
    重点流域水質汚染防止     (10)
    省エネ・循環経済推進      (25)
 自主創新・産業構造調整対策     60億元

【関連情報】

 【中央投入1000億元の外数でアシの速そうな計画】
 国家電網(送電網) 公司年内調達計画 27億元
  *うち中西部都市送電網建設    (14)
      中西部農村送電網建設     (13)

 【プロジェクト認可情報 (中央投入額との関係は不分明)】
 「西気東輸」2線寧夏?広東工程    930億元
 広東陽江・浙江泰山の原発建設    955億元
 新疆等のダム・内蒙等の支線空港   174億元

 【部門毎の?2010投資計画 (中央投入額との関係は不分明)】
 道路 (農道含む)       10000億元
 鉄道               9000億元(年内前倒し500億)
 民航 (空港) 建設       2500億元
 低所得層向け住まい対策   9000億元

2.金融緩和など資金対策について

  前回エントリで 「利下げより融資の量的拡大が肝心(準備金比率引き下げ等)」 と述べたが、その後の報道によると 「利下げ」 が先らしく、その予兆が人民銀行の公開市場操作や債券市場動向からも覗える由である。
  利下げの理由として、実体経済の借入意欲が低下しているため借入意欲を刺激することが重要とのことだ。新規の設備投資借入についてはそのとおりだろう、運転資金借入については切実な量的ニーズがあると思うが、ニーズが切実なほど (資金繰りの苦しい会社ほど) 銀行としては貸しにくい・・・かもしれない。
  4大銀行は内需拡大10項措置をなぞる形で、これをサポートする業務方針を発表している。ただ、4大銀行は国有大企業への融資を優先しがち、下手をすると、鉄道や高速道路など大型公共プロジェクト (国有企業) 向けの融資口を各行が我先に争う結果、民間企業向け融資枠が “Crowd Out” される恐れなしとしない点が懸念材料だ。
  狭義の 「金融」 概念からやや外れるが、中央財政投入に随伴すべき地方政府投入分の資金手当について地方政府向け融資を行う国家開発銀行が年内に400億元の融資追加を行うことが発表されたほか、政府も追加措置を検討している旨を明らかにしている。財政が潤沢な省政府レベルまでは良いが、市政府以下になると土地払い下げ収入の大幅減少で資金繰りが苦しい地方も多いので、何らかの手当は必要だろう。

3.気づきの点

  今回の措置は世界金融危機への対応、各国の緊急内需拡大策という観点から高い評価を得た。タイミングも規模も絶妙だったと言える。しかし、これを中長期的な中国経済の発展という観点から見ると、やや印象が違ってくる。一言で言うと、「政府のワンマン・ショー」 的な色彩が強すぎる気がする。
  もちろん寸刻を争う緊急対策として、政府自ら財政出動する訳だから 「政府主導は当然」 とも言えるが、この数年中国経済は国有企業 (国有経済) 中心の様相を強めており、その分、裾野の広い民間経済は経済政策の片隅に追いやられている印象がある。
  今回の措置も政府が経済に働きかけるというより、(国有企業も含めて) 圧倒的に大きな経済主体である政府が自らの活動を拡大する計画に見えてしまう。しかし、政府主導の内需拡大策はやはり 「呼び水」 役であるべきであり、その後は民間主導の成長路線にバトンタッチできるように構造改革・市場化政策による後フォローが必要ではないか。それなしでは 「政府主導・固定資産投資主導」 の景気回復になるが、それでは半年前まで政府自身が戒めていた経済成長の姿に戻ってしまう。有効需要創出が喫緊事の今、これを言うのは早すぎるかもしれないが、それが 「気づきの点」 である。
平成20年11月16日 記




 

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