Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

米中日金融政策比較

バーナンキFRB議長は、議長になる前、日銀の金融政策を批判して「買う物がなければケチャップでも買え」と言ったり、「デフレを克服するには、ヘリコプターから現金をばら撒けば良い」と発言して「ヘリコプター・ベン」と揶揄されるなど、必要とあらばなりふり構わず金融緩和をするべきだという姿勢で有名でした。
そのバーナンキ議長は、アメリカが金融危機に襲われた今、本当になりふり構わぬ金融緩和を行っているようです。


FRBは誘導目標(政策金利)を1.0%としていますが、実際の平均金利は0.2〜0.3%台であり、事実上誘導目標は機能していません。しかもFRBは超過準備に1%の利息を与えているというのにです。
もしこれが日銀なら、何が何でも市場金利を1.0%に誘導しようとして、実体経済は無視するのでしょうが、FRBは誘導目標を無視してでも実体経済を優先していることになります。
もはや、FRB金利を無視して、事実上の量的緩和政策を採用していると言えるでしょう。

 救済対象を自動車会社など様々な業種に拡大していったら、金融安定化法が用意した7000億ドルは遠くない時期に底をついてしまうだろう。また、緊急融資を拡大し続けるFRBのバランスシートも限りなく膨張しそうである。リーマン・ブラザーズ破綻前の9月10日のFRBの資産規模は9429億ドルだった。それが11月5日には2兆758億ドルに達した。資金繰りに窮した銀行、証券会社、マネーマーケット・ファンド、保険会社(AIG)などへの貸出が増加した。


 さらにFRBは、10月最終週から、金融機関、企業の資金繰り対策として、コマーシャルペーパー(CP)を間接的に買い入れる制度(“CPFF”)を大規模に稼働させている。2週目にその残高は早くも2433億ドルに上っている。ECB(欧州中央銀行)や日本銀行などが実施しているドル資金供給策も、FRBのバランスシートを膨張させている。11月24日からはマネーマーケット・ファンド支援をより推し進める新制度“MMIFF”を FRBは導入する。


 FRBの資産がかつてない勢いで膨張を続けている結果、ニューヨークのドルの銀行間市場ではマネーがジャブジャブに溢れている。銀行がFRBに預けている預金残高(いわゆる準備預金)の1週間の平均は、9月10日時点は80億ドルだったが、11月5日時点は4936億ドルと、わずか2カ月で62倍に膨らんだ。


 日銀が量的緩和策を行っていた頃に、金融機関が日銀に預けていた預金残高は最高で36兆円近辺だった。しかも、超過準備(法定積み立て分を上回る準備預金)の比率は、現在のFRBの方がはるかに高い。FRBの現在の政策は、どこからどう見ても大規模な量的緩和策と言える。

誘導目標を大幅に下回り日米短期金利が逆転



 資金がだぶついている結果、ドルの銀行間無担保オーバーナイト取引であるフェデラルファンド(FF)取引の金利FRBの誘導目標(政策金利)よりも大幅に下落している。10月29日にFOMC(米連邦公開市場委員会)は誘導目標を1%に引き下げたが、今やその目標は形骸化している。実際の平均金利(ニューヨーク連銀調べ)は29日0.36%、30日0.30%、31日0.22%、11月3日0.23%、4日0.23%、5日0.23%である。


 FF金利を少しでも目標に近づけようとして、FRBは超過準備への付利を11月6日から1%に引き上げた(従来0.65%)。しかし、FF金利の平均金利は、6日0.23%、7日0.27%である。欧州系銀行など(米国から見た)外国銀行がドルの資金調達手段としてよく使っているユーロドル・オーバーナイト取引の金利も低下しており、FF金利との差が以前よりも小さくなっている。


 現在、日銀の政策金利(無担保コール・オーバーナイト金利)は10月31日の利下げにより、0.30%近辺で推移している。それよりもFF金利の方が低い状態が続いているのだ。超短期の金利に関して言えば、日米で既に金利水準は逆転していると言える。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20081111/176918/graph1113-1.gif


 FRBは超過準備に1%の利息を与えているので、本来ならば米国の銀行間市場がこうした異常な低金利に陥るのはおかしい。市場金利が1%未満なら、銀行は超過準備で資金を運用するので、超過準備の金利水準が市場におけるFF金利の底になる。


 米国の銀行間市場金利が超過準備の金利水準より低迷しているのは、ファニーメイフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)などのGSE(政府支援企業)や国際機関などFRBの付利の対象とならない参加者が多く存在するためだ。


 こう言うと、超過準備への付利に意味がないと思われるかもしれないが、付利がなければFF金利の平均金利は、連日ゼロ%近辺へ下落しているはずだ。そう考えれば、付利の効果を否定できない。

超過準備の規模は今年末に1兆ドルにも



 FF金利が誘導目標から大幅にずれているという点で、現在のFRBの金融調節は破綻していると言えるが、誘導目標に近づけるためにFRBが資金供給を絞り込めば、今回の金融危機で疲弊している金融機関やファンド、企業の資金繰りに影響を与えてしまう可能性を否定できない。


 このため、FRBは大量資金供給を止められないでいる。それどころか、これから年末に向けてさらに増加していく見通しである。年末時点のドルの超過準備の残高は1兆ドルを超える可能性がある。

「オバマ大統領」誕生でも続く有事の金融調節:日経ビジネスオンライン



また、中国政府は58兆円というとてつもない規模の内需拡大策を打ち出していますが、その政策は大規模な財政出動と金融緩和のポリシー・ミックスであり、かつての日本の高橋財政を思わせます。

 このたびの中国の4万億元の経済対策については、日本のネット界ではなんといっても津上俊哉氏の分析が詳しいが、こちらの方でもいくつか重要だと思える点をメモしておきたい。まず強調しておくべきなのは、中央銀行が眠ったまま機能していないどこかの国とは異なり、今回の決定が大規模な財政出動と金融緩和のポリシー・ミックスである、ということがはっきりしている点だ。このことは温家宝首相が内需拡大策を打ち出してから間髪を入れず、周小川中国人民銀行行長が、年内の利下げも視野に入れた金融緩和によって財政的な刺激策をサポートするという姿勢を明確に打ち出していることからも明らかである。このような金融当局の積極姿勢を裏付けるように、11日には国債レポ市場における公開市場操作を通じて500億元規模という大規模な流動性供給が行われたと伝えられた。同時に、短期金融市場における流動性供給の手段として新たに入札型ターム物貸出(TAF)の導入も発表された。

積極果敢な中国の政府と中央銀行 - 梶ピエールの備忘録。

2.金融緩和の中身


  11日付けの上海証券報が主要なエコノミストの見方を紹介しており、
  ○ 今回の国務院発表に見える 「適度に緩和された金融政策」 という言い方は従来の 「穏健な
   中にも適度な引締め」 といった表現から一線を画する近年初出の表現であり、かなり吹っ切
   れた政策転換の覚悟が見て取れる
  ○ 今後2009年末までに予想される利下げ幅は216basis、預金準備金比率は現行の17%
   から3.5〜5.5%の引き下げになるのではないか
 とのコメントが目に付いた。


  予想に挙がった216basisの利下げ幅は、27basisで刻む今の金利調整慣行からすると8回分、1年貸出の現行金利6.66%からすると4.5%への大幅利下げになる計算である。
  また、前回エントリでも述べたように今回の金融面の措置の 「カギ」 は、利下げ以上に融資の 「量的拡大」である。金利については今日、「10月のCPIは4.0%」 との発表があったが、1年定期預金金利が先日既に3.6%に下がったことを考えれば、依然「マイナス金利」状態が続いている訳で、直ちに大幅利下げに踏み切るのは難しいかもしれない。よって、金融政策の次なる一手は、預金準備金比率の再引き下げになる可能性が大きく、遠からず発表になるのではないか。

Tsugami Toshiya's Blog 中国の 「58兆円内需拡大策」 フォローアップ



このように、アメリカも中国も今回の国際的な金融危機に対して、とにかく実体経済を悪化させないことだけを目的として、なりふり構わない政策を打ち出しています。両国ともいくら国内に問題を抱えていても、政府の経済政策は真っ当であると評価せざるを得ません。


これに対して我が日本ですが、日銀は先日の利下げのとき、政策委員会で8人中7人が利下げに賛成していたにもかかわらず、執行部が利下げ幅を0.2%としたため、0.25%の利下げを主張した3人の委員の賛成が得られず、政策委員会では4人の賛成しか得られませんでした。わずか0.05%の利下げ幅を惜しんだ日銀執行部の行動は、先に挙げたFRB中国人民銀行の思い切った行動と比べると、雲泥の差ですね。


また、日本の政策金利が低いことを理由に日銀にはもう打つ手はないという意見がありますが、実は日銀の長期国債の買い入れ(買いオペ)は現在42兆円であり、日銀自身が決めている保有上限の75兆円と比べると、まだ33兆円の買い入れ余力があります。
しかもこの保有上限は銀行券の発行残高にありますが、そのような上限を設けることには論理的、学問的な根拠はなく、さらに買い入れ額を増やしても構いません。
さらに、日本も金利政策を止めて、量的緩和政策に復帰するという選択肢もあります。

真性デフレの危険、2年続く可能性も


 先行きの消費者物価見通しは衝撃的だ。09年度は平均がゼロ%で、複数の審議委員がマイナスを予測した。今回の利下げが効く10年度になっても平均は0.3%で、一人の審議委員はマイナスと見ている。真性デフレに陥る危険が伴うゼロ近辺が2年にわたって続く。


 しかも景気の下振れが懸念される。02年以降、景気は緩やかではあるが拡大し、消費者物価が下がってもデフレ・スパイラルの恐れは小さかった。09年に景気後退下の物価下落に陥れば、スパイラルのリスクが高まる。


 日銀は「金利はすでに低く、打てる手は限られる」と予防線をはっている。


 確かに金利だけ取ってみれば、効果はかつてほどではない。実際に10月末の利下げにしても、政策金利の下げ幅は0.2%だったが、銀行の調達コスト(円TIBOR3カ月物)の下落幅は0.1%程度に過ぎない。


国債買い入れ」に33兆円の余力


 ただ、打てる手がなくなったわけではない。


 例えば長期国債の買い入れ(輪番オペ)の増額がある。これまで日銀は銀行券の発行残高を長期国債保有上限とし、毎月1兆2000億円を市場から買い入れてきた。ところが11月10日現在で見ると発行銀行券が75兆円なのに対して保有長期国債は42兆円と、33兆円の買い入れ余力がある。


 買い入れ額を月1兆5000億円に増額しても、向こう数年、保有上限に抵触する恐れはほとんどない。銀行券の発行残高を上限にすること自体に、論理的、学問的な根拠があるわけでもない。上限を引き上げれば、さらに買い入れ額を増やすことも出来る。


 もちろん中央銀行による野放図な国債引き受けは問題だ。ただ、連邦準備理事会(FRB)がコマーシャルペーパーを買い入れたり、欧州中央銀行(ECB)が実質ジャンク債を担保に資金供給したりしている。危機時において、健全性の観点から欧米と比べても根拠の薄い銀行券発行残高という上限にこだわる必然性は見いだしにくい。


 買い入れ額を一定の規律を維持しながら増額すれば、長期金利を引き下げる効果が期待できる。国債増発をある程度吸収できるため、金融政策面で景気対策を側面支援できる。


”前のめり金融政策”の修復、量的緩和も選択肢に


 量的金融緩和の再実施も選択肢だ。福井俊彦・前総裁による量的緩和解除、ゼロ金利解除、追加利上げの前提は、日本経済が「生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持され、緩やかな拡大を続ける蓋然性が高い」(福井氏、07年2月)ことだった。


 しかし、その前提は単に円安に支えられていただけで、円安傾向が変わると風景は一変、強気の発言からわずか1年半で日経平均株価は 6000円台まで落ちた。とりわけ07年2月の利上げは地方経済に致命的な打撃を与えた。日銀の政策判断が誤っていた可能性が大きく、誤った金融政策の修復が欠かせない。

NET EYE プロの視点 日銀、迫られるデフレ対応 国債買い入れ増・量的緩和復活など浮上へ



このように米中日の金融政策を見ると、これまでの政策のやり方を捨ててでも実体経済を救おうとする米中と、これまでの政策のやり方や日銀内部の取り決めにこだわって実体経済を無視する日本は、対照的と言うしかありません。
このような政策スタンスを維持できるのであれば、米中は短期的には危機的状況に陥ったとしても、長期的には回復するのではないかと思います。*1
一方、日本はこのような政策スタンスを変えない限り、長期的には政策の失敗によって衰退してしまうのではないでしょうか?

*1:中国の場合は、その過程で共産党独裁が崩壊するかもしれませんが。