木走日記

場末の時事評論

不思議な経済大国ニッポン〜企業経常利益は5年連続過去最高更新中なのに民間企業平均給与は9年連続減少中

 今日(28日)の朝日新聞記事から。

年収200万円以下、1千万人超える 民間給与統計
2007年09月28日08時00分

 民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円で、前年に比べて2万円少なく、9年連続で減少したことが国税庁民間給与実態統計調査で分かった。年収別でみると、200万円以下の人は前年に比べて42万人増え、1023万人と21年ぶりに1000万人を超えた。一方、年収が1000万円を超えた人は9万5000人増加して224万人となり、格差の広がりを示す結果となった。

 年収300万円以下の人の層は5年前の34.4%から年々増加しており、昨年は全体の38.8%を占めた。男女別では、年収が300万円以下の男性は21.6%と5年前から4.6ポイント増え、女性は66.0%で5年前から2.3ポイント増えた。アルバイトや派遣社員など給与が比較的少ない非正規雇用者が増えている状況を浮き彫りにした格好だ。

 一方、年収300万円から1000万円以下の人の割合は一昨年の57.6%から56.3%に減少した。

 また、1年を通じて働いた給与所得者は4485万人と前年に比べ9万人減少した。男性は01年から減少傾向にあるが、女性は逆に03年から増加傾向にあるという
http://www.asahi.com/life/update/0927/TKY200709270647.html

 うーむ、国税庁民間給与実態統計調査の速報値が公表されたわけですが、「民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円」で、「9年連続で減少した」そうであります。

 まあ大方の予想通りの結果でありまして、今回の好景気によるお金が大企業を中心とした上流でせき止められちゃって、一般の労働者の給与所得増には結びついてはいない、それどころか平均所得は9年連続で減少しているのであります。

 ・・・

 今回はこの国税庁民間給与実態統計調査速報値について取り上げてみたいです。

 「年収200万円以下、1千万人超える」とのことですが、当ブログとしては主に事業規模から平均給与を検証してみたいと思います。


 国税庁のサイトはこちら。

国税庁ホームページ
http://www.nta.go.jp/index.htm

 で、民間給与実態統計調査は以下のPDFファイルであります。

平成18年分 民間給与実態統計調査 −調査結果報告−
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2005/menu/pdf/00.pdf

 この中からいくつかの統計値を取り上げてみましょう。



◆民間企業平均給与は9年連続減少

 報告書の12頁にある「(第8表)平均給与及び平均賞与」より、平成8年からの平均給与と対前年伸び率の推移をまとめてみましょう。

【表1:過去11年の平均給与と対前年伸び率の推移】

年度 平均給与(千円) 対前年伸び率
平成8年 4608 0.8%
平成9年 4673 1.4%
平成10年 4648 ▲0.5%
平成11年 4613 ▲0.8%
平成12年 4610 ▲0.1%
平成13年 4540 ▲1.5%
平成14年 4478 ▲1.4%
平成15年 4439 ▲0.9%
平成16年 4388 ▲1.1%
平成17年 4368 ▲0.5%
平成18年 4349 ▲0.4%

 たしかに過去10年を見てみると、ピークの平成9年の467万3千円から、昨年度の434万9千円まで、9年連続で、累計額として32万4千円、6.9%も民間企業の平均給与が下がっていることがわかります。



◆会社規模による平均給与分布

 報告書の14頁にある「(第10表)企業規模別の平均給与」では、資本金別の労働者の平均給与等がわかります、そこから平均給与と平均年齢をまとめてみましょう。

【表2:資本金別の労働者の平均給与及び平均年齢(平成18年)】

区分 平均給与(千円) 平均年齢
個人 2611 47.0
2000万未満 3833 46.1
5000万未満 4113 44.5
一億円未満 4145 42.7
10億円未満 4824 41.2
10億円以上 6159 41.0

 興味深い統計です、当たり前ですが会社規模が大きくなっていくほどに平均給与額も増加傾向にありますが、個人事業主の平均給与261万1千円と10億円以上の企業の平均給与615万9千円では、実に2.36倍の開きがあるのであります、あらためて表にしてみると資本金一億円未満の中小零細業で働く労働者の低所得ぶりが浮き彫りになります。

 また個人の平均年齢47歳を筆頭に事業規模が小さいほど高齢であることがわかります。

 つまり事業規模が大きくなるに従い、平均給与は増大しかつ平均年齢は下がっています。



◆会社規模と雇用者数による平均給与分布

 さて事業規模と労働者数を押さえておきましょう。

 総務省統計局の以下のサイトに最新(平成18年度)の企業統計調査が公開されています。

平成18年事業所・企業統計調査
速 報 集 計

http://www.stat.go.jp/data/jigyou/2006/sokuhou/index.htm

 その中の第6表「企業産業(中分類),資本金階級(10区分),外国資本比率(8区分),経営組織(3区分)別企業数及び国内・海外別常用雇用者数―全国」をもとに、資本金規模別の企業数、雇用者数をまとめてみましょう。

【表3:資本金別の企業数、雇用者数(平成18年)】

区分 企業数 雇用者数
全産業(R公務を除く) 1,515,965 33,703,018
300万円未満 24,278 101,004
300 〜 500万円未満 557,406 2,751,210
500  〜 1,000 189,062 1,185,013
1,000  〜 3,000 607,038 8,837,705
3,000  〜 5,000 68,605 2,975,660
5,000  〜 1億円未満 40,292 3,584,422
1 〜 3 14,900 2,553,782
3 〜 10 8,333 2,588,423
10 〜 50 3,932 2,521,608
50億円以上 2,119 6,604,191

 ここで注意すべきは、上記総務省統計局の表の雇用者総数3370万人は企業の常用雇用者総数であり、国税庁民間給与実態統計調査の分母4485万人と1115万人の開きがあるのですが、この差分が個人事業主(+非常用雇用者)と考えてよろしいでしょう。

 上記表2と表3をまとめてみました。(※2000万未満の企業数、従業員数は1000〜3000万の人数を按分してまとめてみました)

【表4:資本金別の企業数、雇用者数と労働者の平均給与等(平成18年)】

区分 企業数(千社) 雇用者数(万人) 平均給与(千円) 平均年齢
個人 −−−− 1115 2611 47.0
2000万未満 1074 846 3833 46.1
5000万未満 372 739 4113 44.5
一億円未満 40 358 4145 42.7
10億円未満 23 514 4824 41.2
10億円以上 912 6159 41.0

 ご覧の通り、日本の企業は企業数の99%、従業員数の80%が資本金10億円未満以下のいわゆる中小企業・零細企業に集中しています。

 資本金10億円をしきい値として表4をまとめて、日本の全雇用者を従業員数で按分補正してみました。

【表5:資本金別の企業数、雇用者数と労働者の平均給与等その2(平成18年)】

区分 企業数(千社) 雇用者数(万人) 平均給与(千円) 平均年齢
10億円未満 2624 3572 3683 45.0
10億円以上  6  912 6159 41.0

 企業数で1%、雇用者数で20%を占める資本金10億円以上の大企業雇用者912万人の平均給与615万9千円ですが、それ以外の3572万人の平均給与368万3千円とには1.67倍の差があることがわかります。



◆平成9年と平成18年の比較

 さてここに平成9年度の国税庁民間給与実態統計調査結果が公開されています。

平成9年分 税務統計から見た民間給与の実態>1.平均給与
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan1997/menu/04.htm

 この資料をもとに平成9年当時の資本金別の労働者の平均給与と直近の数値(平成18年)と比較してみましょう。

【表6:資本金別の労働者の平均給与の推移(平成9年と平成18年の比較)】

区分 9年平均給与(千円) 18年平均給与(千円) 増減率
個人 2702 2611 −3.4%
2000万未満 4249 3833 −9.8%
5000万未満 4359 4113 −5.6%
一億円未満 4638 4145 −10.6%
10億円未満 5192 4824 −7.1%
10億円以上 6350 6159 −3.0%
平均 4673 4349 −6.9%

 興味深い結果です。

 全体としてこの10年で、日本の民間企業の平均給与は467万3千円から434万9千円と6.9%減少していますが、10億円以上の大企業に限れば635万円から615万9千円へと3.0%の減少にとどまっています。

 個人事業主が−3.4%と健闘しているのは意外でしたが、各区分すべてにおいて−10.6%の一億円未満を筆頭に、10億円以上の大企業より平均給与の減額率が大きいことがわかります。



◆まとめ

 国税庁民間給与実態統計調査によれば、平成10年以来、9年連続で日本の民間企業平均給与は下がり続けています。

 減少ペースですが、額にして年平均3万二千四百円、パーセントにして0.7%平均で目減りし続けています。

 検証したとおり細かく数字を追いかけてみると、企業規模により平均給与額に最大2.36倍(個人事業主と資本金10億円以上の労働者)の開きがあり、資本金10億円以上の大企業労働者とそれ以外の労働者で2分すると、平均給与は大企業雇用者912万人の平均給与615万9千円ですが、それ以外の3572万人の平均給与368万3千円とには1.67倍の差があることがわかります。

 ピークである平成9年度と直近(平成18年)の数値を企業規模別に比較すると、全区分に置いて平均給与は減少しておりますが、全体で−6.9%の減少率の中、10億円以上の大企業が−3.0%でふみとどまっている中で、中小企業、特に5000万以上一億円未満規模の−10.6%の減少と、厳しい数値が並んでいます。

 ・・・

 昨日(27日)の読売新聞記事から。

経常利益、売上高が過去最高を更新…06年度法人企業統計

 財務省が27日発表した2006年度の法人企業統計調査によると、全産業の経常利益は前年度に比べて5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、過去最高を更新した。

 売上高も3・9%増の1566兆4329億円と4年連続のプラスで、同じく過去最高となった。製造業、非製造業とも増収増益となり、景気回復に伴う企業業績の好調さを示した。

 また、全産業の設備投資は14・3%増の44兆1365億円で、2年ぶりにプラスに転じた。

 経常利益は、製造業では携帯電話などの情報通信機械や一般機械が好調で9・3%増だった。非製造業は、不動産業や運輸業が増益で2・2%増となった。

(2007年9月27日12時44分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070927i105.htm?from=main1

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 財務省によれば全産業の経常利益が前年度比5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、空前の過去最高を更新している中で、国税庁によれば民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円で、9年連続で減少中なのであります。

 うーん。

 考えてしまいますね。

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 企業の経常利益が5年連続で前年を上回り過去最高を更新中なのに民間企業の平均給与が9年連続で減少中である不思議な経済大国ニッポンなのであります。



(木走まさみず)