株安の主犯は誰?

今週初めまでこれだけ株が下がったと言うことは、やはり本国の相場の下げで損した外国人が資金調達のため手仕舞い売りをしているのだろうか、じゃあ、投資部門別売買動向を見てみよう、とふと思い立った*1。しかし、東証のデータから自分でグラフを作るのも面倒なので、どこかに無いかな、と思ったら、ここにあった。
これを見ると確かにここ1ヶ月外国人が10月第2週を除き売り越している…のだが、それ以上に証券の自己売買部門が売り越している。これはどうしたことだ、と驚いたが、これ以上はやはり実際の数字を見ないと分からないので、前述の東証のサイトからデータを引っ張ってきて、改めて表にしてみた(3市場1、2部等売買代金の売買差引[売り越しならマイナス]、単位千円)。

総計 自己計 委託計 日経平均終値
9月第1週  -4,829,216  -94,865,143   90,035,927  12,212.23
9月第2週   7,566,328  459,890,023 -452,323,695  12,214.76
9月第3週  37,640,905  -37,383,250   75,024,155  11,920.86
9月第4週   9,821,128   88,832,025  -79,010,897  11,893.16
10月第1週   6,728,379  169,314,451 -162,586,072  10,938.14
10月第2週  -9,666,378 -439,854,279  430,187,901   8,276.43
10月第3週 -21,305,998 -414,887,671  393,581,673   8,693.82
10月第4週 -16,466,779 -670,385,853  653,919,074   7,649.08


(委託内訳)

法人 個人 外国人 証券
9月第1週   60,714,281 213,184,681 -194,520,776 10,657,741
9月第2週 -116,136,176 -15,722,520 -324,222,972  3,757,973
9月第3週    9,819,725 -49,819,114  114,433,166   590,378
9月第4週   19,877,791  65,796,710 -172,110,167  7,424,769
10月第1週   90,132,312 113,601,103 -373,431,757  7,112,270
10月第2週  247,068,746 131,678,179   45,880,490  5,560,486
10月第3週  327,051,022 278,798,793 -225,858,574 13,590,432
10月第4週  328,725,722 394,887,518  -94,176,234 24,482,068


こうしてみると、9月中旬から10月初めまでは、外国人の売り越しにより委託計が売り越しになっても、自己売買が買い越して何とか買い支えていたことがわかる。しかし、10月第2週以降は、その自己売買が大きく売り越しに転じ、委託計がせっかく個人や法人のお蔭で買い越しになっているのに、それを上回る売りを浴びせている。つまり、10月後半の株の下げの主犯は外国人ではなく、証券会社だったのである。


なお、このサイトの解説のように、証券の自己売買部門は先物は買っているので、株式と先物を通算して見るべき、そうすると自己売買の動きは中立、という人もいる。しかし、以前のエントリで紹介したクルーグマンが論じたように、先物の需給は先物市場で決まり、現物の需給は現物市場で決まるので、両市場の自己売買部門の動向を通算することにそれほど意味があるようには思われない。
もちろん、クルーグマンが論じた原油市場とは違い、株式市場では先物と現物の裁定取引が容易に実施できるので、より密接な関連しているとは言える。しかし、そうした裁定に起因する取引にせよ、あるいはヘッジに起因する取引にせよ、最終的には、現物市場内の売買取引として現れ、あくまでもそれにより現物の価格が決まる。従って、現物市場の値動きを各主体の売買動向から分析したい場合は、やはり現物市場での売買動向に的を絞るのが筋だろう。


一応、先物の売買動向データを見てみよう。東証先物は前述のページに、日経平均先物大証のページにあるが、このうち日経平均先物の売買動向(上表と同じく千円単位の売買差引額)を表にすると、下記のようになる。

総計 自己計 委託計
9月第1週 -24,425,490   68,739,170  -93,164,660
9月第2週   288,530 -289,905,587  290,194,117
9月第3週  7,429,270  -75,579,976   83,009,246
9月第4週 -10,989,580 -157,422,832  146,433,252
10月第1週  1,627,620 -133,087,979  134,715,599
10月第2週  1,141,150  317,908,802 -316,767,652
10月第3週  3,385,470  315,248,531 -311,863,061
10月第4週 -1,109,230  310,050,639 -311,159,869

これを見ると、確かに先物自己売買部門は現物のそれと逆相関を示しているように見える。だが、それは委託部門も同じである。委託部門もヘッジやEFPを通じて先物と現物にまたがる売り買いをしていることを考えると、やはり、証券会社だけ両者を通算することに意味があるようには思われない。


ちなみに裁定取引については、東証のこのページである程度動向が把握できる。

A B
9月第1週   -1,466 -304,495
9月第2週  127,593 -184,468
9月第3週  -29,292 -138,086
9月第4週  139,639   14,375
10月第1週  237,129   25,806
10月第2週  -85,630 -612,640
10月第3週 -169,427 -138,867
10月第4週 -304,095 -566,842

A=プログラム売買に係る現物株式の売買のうち、裁定取引に係る売買(買付け−売付け)
B=裁定取引に係る現物買いポジションの前週末比変化*2
(いずれも単位は百万円)
これを見ると、10月中旬以降証券会社が買いポジションをunwindしたことが、自己売買部門が売り越しに転じた一つの要因と言えそうだ。


外国人の動向について言えば、素人考えでは、これだけ円高が進んでいるのだから、また買いに転じてくれないか、という淡い期待もある。巷間言われるように今回の円高キャリートレード手仕舞いに伴うものならば、そうして得た円をそのまま株式市場に…というのは甘いかな…(ただ、こういう話もあるようなので、あながち的外れではないかも)。
今週火曜以降は株も円も反転しているが、果たして今後どうなりますことやら。

*1:解釈に注意が必要という話もあるが、取りあえず傾向を見てみようかと。

*2:売りポジションは相対的に小さいので、ここでは簡単のため捨象。