いまだ金融危機は危険水域か?

 http://calculatedrisk.blogspot.com/2008/10/credit-crisis-indicators-worse.htmlアンナ・シュワルツ氏の警告

 クレジット・スプレッド(のひとつTED spread:どんなものかはこのエントリーの後半を参照)をみてみると

 http://www.bloomberg.com/apps/quote?ticker=.TEDSP:IND 
 ではまだ高水準の3.63。一時期の4.65という水準からは低下しているが通常ラインの0.5%に比べると、格段に信用リスクに直面している状況といえる。
 これはアンナ・シュワルツ氏が指摘しているように「(資金の借り手への)信頼の喪失」のためにいまだ金融危機を乗り切っていない証拠なのか? ただし他方で(シュワルツが大恐慌期に金融危機大恐慌の接続点として注目した)マネーサプライをみると急激な縮小といった現象はみられていない。

 しかしシュワルツは今回の危機は大恐慌のときとは異なると指摘している。つまりFRBや政府が考えているような「流動性の危機」ではなく「信用の危機」とでもいうべきものだと彼女はいいたいようだ。つまり彼女は今回の危機には、政府の恣意的な政策が遠因にあり、それが信用リスクの高止まりを払い難いものにしている、と見ているようだ。

 リーマンはなぜ潰してAIGはなぜ救済したのか、昨日いったことと今日していることの矛盾。つまり動学的非整合問題を示唆しているのか? そのためなんと彼女は今回は政府は何もしないでかってのアンドリュー・メロンが主張したイケだあ、失礼清算主義を唱えている。

 ところで動学的非整合についてはkoiti yanoさんのここの解説(堤防の話)を読まれたい。確かに適当に読み替えるといまの状況に似ている。

 僕はシュワルツの清算主義には賛成しかねるのでもっと違う方法を考えたいと思う。しかしこうなると現政権の政策スタンスそのものがこの信用リスクの根源になるから、結局は大統領選で政権がかわり一種の「レジーム転換」が生じないかぎりなかなか難しい問題になるのでは? う〜む。あるいは実際に資本注入が実施されるとか政策の進展が公衆の信認を次第に得ていくことで信用リスクが低下していくという(理論的にはスマートではないけど実際にはありがちな)可能性があるのか。一番手っ取り早く試せる手法は、ポールソンをクビにすることかもね。

 以下はCalculated Riskの記述から

 http://calculatedrisk.blogspot.com/2008/09/credit-spreads-off-charts.html

 :We've been tracking the TED spread as a measure of distress in the credit markets (the difference between the LIBOR interest rate and the three month T-bill). Usually the TED spread is less than 0.5%. The higher the spread, the greater the perceived credit risks (compared to "risk free" treasuries).:

 またこれもCalculated Riskが重視しているhttp://www.federalreserve.gov/releases/cp/でのA2/P2も極めて高い水準の4.51%である。

 このA2/P2についてのCalculated Riskの記述

:This is the spread between high and low quality 30 day nonfinancial commercial paper.

What is commercial paper (CP)? This is short term paper - less than 9 months, but usually much shorter duration like 30 days - that is issued by companies to finance short term needs. Many companies issue CP, and for many of these companies the risk of default is close to zero. This is the high quality CP. Lower rated companies also issue CP and this is the A2/P2 rating.

Usually the spread between the A2/P2 and AA paper shows the concern of default for the A2/P2 paper. But right now this shows the credit markets are essentially locked up waiting for The Mother of All Bailouts.:

 Calculated Riskに習ってこのふたつのクレジット・スプレッドをしばらく注意してみたい。

(補)ここで紹介されているkashyap and diamondらのように「ルール」をより明確にしていくというのもシュワルツ流の「信用リスク」の減少につながるだろう。でもMark Thoma氏のようにポールソンクビが本音という路線も捨てがたい(笑 いや笑えないか)。

福田徳三関連資料

http://d.hatena.ne.jp/arg/20081011/1223715363

 岡本さんのarg経由で存在を知る。これはすごい。この資料を10年くらい前に一橋大学図書館の皆さんのご好意で拝見させていただいたのですが、いまは自宅で簡単閲覧。現物は新聞紙に包まれてかなり痛んでいただけにこれはすごい作業です。ただこの福田徳三のドイツ語や英語で書かれた資料で、福田の理論の変遷を辿る上で重要なキーになる部分は実のところ未発展のままに終わっているのではないか、と思っています(改造社版の『経済学原理』を超えてないのではないか? とこれをここで書いてもたぶん日本でこれに応えることのできる方は5人もいなかったりして…笑)。もちろん金解禁問題に関するものとか、いくつかの欧文で書かれた論文の写しや草稿類には面白いものが多いですね。福田徳三って語学の天才なんだなあ、とつくづく思います。

 西沢保先生が近々講演されるそうですが、たぶん僕より早く(←反省すべし)福田徳三の評伝を出されるんじゃないでしょうか(日本経済評論社のシリーズでは近刊告知なので)。僕は福田の清算主義的な側面をどう彼の体系の中で解釈するかで試行錯誤してますのでちょっとまだかかりますね。いま400字換算で400枚ぐらいまできてるのですが……。

福田の重要資料:http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/da/handle/123456789/5488

ただちょっと残念なのは山田雄三氏寄贈分の中の福田徳三の「恐慌不況論」(卒業論文)と山田氏の出席した講義ノートがまだネットで閲覧できないことでしょうか。このふたつはかなり史料価値があると思います。