クルーグマン氏、ノーベル経済学賞受賞

 http://nobelprize.org/nobel_prizes/economics/laureates/2008/

 驚いたw 受賞理由は上記にあるようにマクロ経済学の業績ではありませんが、これから彼の発言がより一層重要視されることでしょう*1

 さてこれを記念してクルーグマンの本で僕が好き=お世話になったものベスト5をあげたいと思います(邦訳のあるのだけ)。

 第5位:『予測 90年代、アメリカ経済はどう変わるか』

  邦題がだめとの指摘がありますが、この本は大学院のときに授業で日米貿易摩擦についての議論をレポートにするときに最も依拠したものです。他には竹中平蔵氏の本とか伊東光晴氏の本も読みましたがどれも僕には「?」ばかりで、一番教科書の経済学に適合していたクルーグマンのこの翻訳をベースに課題レポートを仕上げたのです。先生は実務家の人で、僕がこのレポートをもとに報告し、伊東氏や竹中氏の貿易摩擦解釈は(クルーグマン=経済学の)教科書とは違い意味がわからない、といったら、すごく怒り出して、重箱の隅をつくような箇所を持ち出して「ほら、経済学で説明できないだろ」と得意満面というか興奮で顔が真っ赤になっていたことを思い出します。僕はなんでこの人は経済学の教科書をもとに説明するとそんなに怒るのだろうか? と意味がよくわかりませんでしたが、それから20年近く経った今はその意味がよ〜くわかりましたw(というかその反感をいまも個人的に再生産していきてますw) なお、その先生はいま大学院にはいませんが後輩たちには非常にいいことだと思っています。

予測 90年代、アメリカ経済はどう変わるか。

予測 90年代、アメリカ経済はどう変わるか。

 第4位:『クルーグマン国際経済学(経済学大系シリーズ)』

 これも上記のレポートをまとめるときに参考にしたものです。邦訳は最近のものをご紹介。昔は二分冊にでした。

クルーグマン国際経済学 (経済学大系シリーズ)

クルーグマン国際経済学 (経済学大系シリーズ)

 第3位:『良い経済学 悪い経済学』

 これは今回のクルーグマンの受賞理由となった戦略的貿易論をまじめに?現実適用した人たちとクルーグマンとの論争史といえましょう。「国際競争力」という概念の怪しさを徹底的に議論したり、また「東アジアの奇跡」などの議論を含むものでいまでも必読の文献でしょう。

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

 第2位:『恐慌の罠』

 この論集もいいですね。特に当時の小泉構造改革竹中平蔵氏の経済政策を「暗闇への跳躍」として批判し、竹中氏が潜在成長率を思いのままコントロールできると思っていることに批判の矢をむけたことや、日本の流動性のワナを説明する簡単なモデルを提示しています。

恐慌の罠―なぜ政策を間違えつづけるのか

恐慌の罠―なぜ政策を間違えつづけるのか

 第1位:『クルーグマン教授の〈ニッポン〉経済入門』

 この本の冒頭にある論説こそ、日本の陥っているデフレの罠を脱出させるインフレターゲットを用いた期待経路の重要性を世にといたものです。この本はいまだに示唆的な論説が多く収録していて、資本注入や財政政策の効果、それにスベンソンのデフレの罠の脱出法、そして訳者による日本の論争への一瞥などなど飽きることはありませんね。

クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門

クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門

*1:なお余談ですが、クルーグマンの先日の複数均衡における財政政策の効果をめぐる話を「雑談」と誹謗する一部のネットの妄言がありましたが、そういう妄言にかぎって権威に弱く、今回の受賞を契機に、クルーグマンのちゃんとしたリフレと日本のリフレなどとわざわざ必要もない二分割をして、前者を誉め、後者をけなすという意地汚い論法をとると思われますので理性ある人は要注意です 笑

「トップの一本」は大切に?

 Baataismさんに教えられた話題。

 もしも波平がホントに美容院に来たら?
 http://www.excite.co.jp/News/bit/E1223568706161.html

 もし日本の国民が老若男女問わずに波平となったらどうなるだろうか? たぶん日本は流動性の罠ならぬトップ一本の罠にガチンコ嵌る。

 これは僕が基本理論を構築したのではなく、かの小野善康さんの理論を応用すればいえることだ。この小野理論はよくインタゲ批判だとか、なかにはリフレーション一般を批判するために用いるトンデモさんまでいるのだが、それらの諸解釈はミクロ的基礎の明示がいまいち足りない。しかし波平であれば国民にも分かりやすいミクロ的基礎が提供できるだろう。なんといっても毎週全国で絶賛放映中で、彼のミクロ的行動は全国民に明示されている。波平モデルの明晰さと扱いのよさは流動性の罠の理論の中でも群を抜くことだろう。以下はそのような波平によるミクロ的基礎づけを小野理論に与える。わりと簡単に小野理論を超えるスーパー波平理論が完成するだろう。以下、基本テキストは名著『不況のメカニズム』による。

 あらかじめ結論をいうと流動性の罠を上回る不況を招く「トップ一本の罠」が起きるのは、波平が「トップの一本」に異常にこだわることで生じる。波平の「トップの一本」の保有願望がブラックホールのように購買力を飲み込み、ついには貨幣の保有願望をも飲みつくしてしまう。これによって「トップの一本」の保有願望が、経済を停滞させ長期の不況を招く。

 以下に簡単に説明しよう。図は波平が所得を消費と貯蓄に回すときの活動を図式化したものである。小野先生の本の図17に多少の修正を施したものである。

 波平は所得を消費するか(例えば増毛剤、ヘアケアサービスなどへの消費である)、もしくは使わないで貯蓄するかする。貯蓄は資産を増加する行為として考えられ、それは貨幣を保有するか、あるいは実物投資とするか、あるいは「トップの一本」にまわすかされる。「トップの一本」はもちろん抜けてわか〜る大切な「資産」であるのはいうまでもない*1

 図では貨幣保有を一単位増やすことから得る流動性の効用を貨幣単位で測ったものを「流動性プレミアム」と読んでいる。これは(誤解を恐れず書けば)直観的にいえば貨幣をちょっと増やすことでもたらされる快楽であるビビビビビビ。

 例えば人は貯蓄して貨幣保有を増やせば流動性プレミアム分の快楽を得るビビビビビ。また実物投資も収益率という「利子」をもたらすだろう。そして「トップの一本」を保有することでもたらされる利子率も存在するだろう(あとでこの名称は指定する)。いま合理的に行動すればこの流動性プレミアムとそれらの各種利子率はちょうど等しくなるにちがいない。

 他方で消費との関係はどうだろうか。いまの消費を犠牲にして貯蓄(将来の消費)を選択するさいに、比較しなくてはいけないのは消費の利子率(時間選好率+物価上昇率)である。この消費の利子率>流動性プレミアムならば消費を増加したほうが波平にはいい。

 例えば波平は育毛剤頭皮マッサージなどの消費を行うことを選ぶだろう。逆に利子率<流動性プレミアムの場合では、波平は育毛剤頭皮マッサージを断念して、貨幣保有を選択するだろう。さて人々は、この流動性プレミアムと消費の利子率がちょうど一致するように消費量を選択する(この意味で流動性プレミアムとは消費と貨幣保有との限界代替率である)。

 しかし流動性の罠の存在を考慮すると事態は異なる。小野先生は先にも書いたように貨幣の保有願望は事実上飽和することはない、どんどん貨幣を持ちたくなる、と考えたのである。以下その部分の引用である。

 「ここで流動性の罠があれば、購買力は貨幣にいくら向かっても流動性の便益は下がらないが、有利な投資機会や消費への欲望は、それそれ投資や消費が増えるにつれて減退する。そのため、実物投資や消費には限界がある一方で、貨幣は購買力を限りなく吸い込み、需要不足の状態が続く。すなわち、飽くことのない貨幣保有願望を持つ人々が、みずからの持つ流動性選好と時間選好を両立させるように総需要を決めるが、その水準が完全雇用生産量と両立する保証はないということである」(小野、174頁)。

 これは飽くことのない貨幣保有願望とは、貨幣保有願望が高止まりして流動性プレミアムがある一定の水準以下にきり下がらないことを意味している。そのため消費するよりも貨幣を保有することを波平が選ぶので消費は冷え込んでしまう。他方で流動性プレミアムが高止まりしていると実物投資も冷え込む。例えば実物投資にまわる資金量が増えれば増えるほどその収益はどんどん低下していく。しかし貨幣保有の便益はそんなことはない。そのため実物投資にまわる資金には限界があるが、貨幣保有はそんなことはないので貨幣保有ばかり増えていく。

 しかし貨幣保有願望よりももっと恐ろしいのが波平の「トップの一本」への保有願望である。『サザエさん』を見ている読者の方には自明であろうが、波平が物語を通してもっとも執着しているのはお金ではない。「トップの一本」である。

 つまり「トップの一本」の保有願望の方が貨幣の保有願望よりも大きいのである。波平は資産をもてば貨幣の保有願望よりも「トップ一本」の保有のためにその資産をどんどん回すであろう。これはさらに深刻だ。つまり流動性プレミアムよりもこの「トップの一本」の「利子率」(これをトップ・プレミアムと名付ける)の方が高止まりしているのだ。

 このため小野モデルの場合よりも相対的により一層高い水準で利子率が止まることで消費や実物投資の一層の減少を招き、それが総需要を低下させ、さらに不況を深刻なものにする。国民全体が「トップの一本」にこだわる波平になればその衝撃度は深刻なものである。

 ではこのときどう処方すればいいだろうか? 理容師が「トップの一本」を誤って「清算」すべきか?*2 あるいは猛烈に効く毛生え薬が開発されることで消費の魅力を高め、「トップ・プレミアム」を低下させるのか? または期待をコントロールすべきか?(現在のトップの一本ではなく将来のけーぼーぼーにコミットするか)、その選択はわれわれ国民にかかっている*3

 なお「資本注入」(植毛)は、自毛へのこだわりによるこの種の「トップ・プレミアム」を低下させることができるのかその効果には議論が多い。

*1:なお「トップの一本」は時間を通じて一定ではない。ナノレベルでの変化として増減可能な資産である

*2:それは波平の人生への絶望を招くことになるのではないか?

*3:なお、このネタの議論こそ小野理論の貨幣保有願望の不飽和性の問題性をマジに提示していることは内緒ですw

高橋洋一『日本は財政危機ではない!』

 高橋さんの一連の持ちネタのうち本書は、埋蔵金、リフレ、道州制に重点が置かれていて、他には自民党の総裁選候補の特徴付けにからんだ自民党内の路線についての分析などが書かれている。道州制については、僕は高橋さんの説明を聞いても実はあまりピンとこなくて、道州制で地域間競争みたいなものが起きてそれで効率化がうながされる、ということなんだけども、これって発想的になんとなく「国家間の競争力」と似た発想を感じる。まあ、ここらへんは僕もよくわかってはいないのだが(テーマが苦手)。

 リフレについては中川氏とともに最優先ランクになっていて頼もしい。それによくリフレ派は政策的実現性に乏しいというけれども、わが賢明なる日本銀行財務省もよくリフレ的政策の有益性を理解しているのは各種情報から明らかだと思う。量的緩和や円安介入(擬似スベンソン案)などはリフレ的な発言がでればそれを叩いていたにもかかわらず、結局は政策に導入した。問題なのは危機的な状況という「追い込まれた政策」としていずれも採用されていること。そして効果があったあとに急速に手仕舞いするのも共通している。まあ、今回はどうなるのか。国民のひとりとしては、高橋さんの今回の本にも詳述されている財務省日本銀行の省益、厨益を今後も明らかにしていきたいところ。

 今回も高橋節は健在であっという間に読める。

日本は財政危機ではない!

日本は財政危機ではない!