「広く浅く投資」はもう通用しない――ベンチャーキャピタルに迫られる変化大企業との提携がカギ

証券取引所の審査の強化などが影響し、新規に公開される株式の数が激減している。ベンチャー企業を取り巻く外部環境は厳しいものといえる。そのような中で、ベンチャーキャピタルのビジネスモデルも変化が必要となっている。

» 2008年09月26日 17時30分 公開
[杉浦知子,ITmedia]

 ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン(GB)は9月19日、ベンチャー企業を対象としたイベントを開催した。GBの百合本安彦社長が、ベンチャー企業を取り巻く環境の変化に伴い、ベンチャーキャピタルのビジネスモデルにも変化が迫られていると述べた。ベンチャー企業の支援の方法として、大企業との提携が効果的という。同フォーラムでは、ベンチャー企業5社がそれぞれの事業を紹介するイベントも開催された。

確率論的な投資から手堅い選別投資へ

グローバル・ブレインの百合本安彦社長 百合本安彦氏

 ベンチャーキャピタルの多くは、成長の見えた段階で企業に投資を開始するが、GBは資金調達や事業計画策定といったスタートアップの段階から投資をする。新興市場に上場したものの成長が止まった企業には投資をせず、同社が“優良”と判断する「売り上げ50億円、時価総額100億円を超える企業」(百合本氏)のみを支援している。その理由を百合本氏は、国内のベンチャー企業を取り巻く環境と、ベンチャーキャピタルに求められるビジネスモデルを交えて話した。

 百合本氏は、サブプライムローン問題や米Lehman Brothersの財政破綻、米国政府による米AIGへの資金供給などを例に挙げ、「今後、投資業務に対する資金の先細りが起こる」と話す。国内では、2006年のライブドア事件や村上ファンド事件などを発端にした金融取引法の施行を挙げ、ファンドの運営を管理するGBのようなベンチャーキャピタルも厳しい局面にあると百合本氏は指摘する。

 「J-SOX法による内部統制の強化や、証券取引所の審査の強化、株式市場の低迷などのあおりを受け、ベンチャー企業の現状は厳しい」(百合本氏)という。8月にGBが投資して上場に導いた企業も「去年と比べて非常に厳しい審査を受けた」などと身をもって経験した厳しさを話した。それに伴い、新規公開される株式数も激減している。「2007年は121社が株式公開したが、2008年は10月時点で33社にとどまる。年末までに公開する企業は50社前後だろう」と現状を話した。

 このような外部要因を受け、百合本氏は「ベンチャーキャピタルのビジネスモデルは質的な変化が必要になる」と話す。「今までは広く浅く投資をして儲ける“確率的な”ビジネスモデルだったが、株式公開数が減っている今は通用しない。これからは成長するベンチャー企業に選別投資をして育てる」(同氏)モデルが必須になるという。

 GBは、7年間で2800社を検討。現在までに21社に投資し、そのうち7社の上場にこぎ着けた。営業先に同行するなど、株式公開後もパートナーとして支援を続けている。「上場後に株式を手放すベンチャーキャピタルがほとんどだが、GBは株式を手放さず東証一部に上場するまでサポートする」(百合本氏)

 ベンチャー企業の支援には、アライアンスを活用している。日本IBMや富士通などと手を組み、企業の育成に注力している。また、海外ベンチャー企業の発掘、支援も手掛けている。米Cisco Systemsや米Intelなどと共に、シリコンバレーで無線メッシュやネットワーク技術を開発する米Zensysを支援し、日本市場への進出に導いた実績がある。

多種多様なベンチャー企業が登場

 同フォーラムでは、GBが実際に投資をしている企業を含むベンチャー企業5社が、それぞれユニークな事業内容と今度の展望について熱のこもったプレゼンテーションを披露した。

フォレスト・プラクティスの田辺大社長 フォレスト・プラクティスの田辺大社長

 今回注目を集めたのは、マッサージの国家資格を持つ視覚に障がいのある人を雇用し、企業へ出張マッサージサービスを提供するフォレスト・プラクティス。企業における過重労働、運動不足といったメンタルヘルスの問題の解消を目的とする事業だ。田辺大社長は「ビジネスパーソンを癒し、障がいのある人の雇用促進をしたい」と話す。サービス内容に加え、障がいのある人の社会進出するための機会提供が来場者の支持を集めた。

 そのほか、ジョギングなどの運動を中心としたソーシャルネットワーキングサービスを提供するウイングスタイル、懸賞付きのクイズコンテンツを提供するネオプロモーション、オーディオブックを提供するオトバンク、「Skype」を使った格安のオンライン英会話を提供するレアジョブが登場し、会場を沸かせた。

左から ウイングスタイルの羽石雄高社長、ネオプロモーションの藤田貴子社長、オトバンクの業務執行責任者兼最高財務責任者の久保田裕也氏、レアジョブの加藤智久社長

 百合本氏は「ベンチャー企業が直面する環境は、証券取引所での審査が厳しくなっているなどネガティブな話題も多いが、同社にとってはチャンスととらえている。このようなフォーラムでは、ベンチャー企業のポジティブな姿勢を紹介することで、ネガティブな環境を吹き飛ばしたい」と本フォーラムと国内のベンチャー企業支援にかける意気込みを語った。また、田辺社長は「わたしたちの力で、社会は変えられます」とベンチャー企業が日本社会に及ぼす影響に期待を込めたコメントを寄せた。

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