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ブログ 津上俊哉
「大恐慌」 以来の経済・金融危機? (フォローのフォロー)

今週も“gloomy”な一週間になりそうな予感がします。


               「大恐慌」 以来の経済・金融危機? (フォローのフォロー)


  本21日の日経一面トップは 「外貨建て担保に資金供給?日米欧6中銀が検討」 だった。要旨は、先週発表されたG7中銀によるドル供給のためのスワップ措置も含め、現状では各中銀が自国通貨建ての担保しか受け入れない制度になっており、外銀の資金繰りに役立たないため、(カナダを除く) G6国中銀が外貨建ての担保も受け入れられるよう制度の拡充を図ることを検討しているというものだ。
  「えっ、そうなの?」 と思って、慌てて日銀ホームページを見に行った。前回のフォローアップでも引用した 「適格担保取扱基本要領」 というヤツだが、よく読むと確かに、「4.担保の適格基準」 の中に、信用度 (元利金支払確実性)、市場性 (換金処分の容易性) と並んで、「その他の適格基準」 として、(イ)円建てであること、(ロ)国内において発行、振出または貸付等が行われたものであること、(ハ)準拠法が日本法であること が明記されている。
  前回のフォローアップでは、「上述した連銀特融やファニメ・フレディ救済策が受け入れているのと同じような (米国のMBSなどの) 傷んだ資産を日銀が 「適格担保」 と認めるのか否か」 が知りたいと述べたが、答えは単純明快、今は受け入れ不可能・・・現場と実務を知らない身の限界です、先回りして心配しすぎたみたいだ。

  で、記事が取り上げた、外貨建て担保を受け入れるための検討であるが、適格担保と認められるのは 「信用力の高い外国政府債が中心となる見込み」、また、「外貨建て担保は時価評価が難しく、中銀内のシステム整備や各国間の法制度の摺り合わせも必要」 なため、「外貨建て担保の導入は (G7中銀スワップによるドル供給措置の期限である来年1月末の) 後にずれ込む可能性もある」 と書いてある。
  記事はいかにも 「日経一面トップ」 のノリで、どこまで正確なのか心許ないが、少なくともG7中銀のスワップ取り決めは、口で言うほど簡単に実施できる代物ではないし、切羽詰まった情勢下で多大の実効を挙げるものでもなさそうなことがよく分かった。
  記事は難しさの一つとして 「日銀のシステム整備」 の必要に触れている。入札手続も必要だし、貸出は 「電子貸付」 による由、決済にまつわる日銀のシステムは日々の決済状況監視やリスク管理の目的で、きっと高度な仕組みになっているだろうから、システム手直しは本当に時間がかかるのだろう。しかし、「1月末には間に合わないかも」 とは・・・。
  受け入れる適格担保は主要国のソブリン債が中心というのは、中央銀行らしい保守的態度でけっこうだ。火元の米国は 「なりふり構わず」 モードで傷んだ資産も受け入れているが、同時にファニメ・フレディでもAIGでも、政府が会社議決権のマジョリティを押さえる措置を講じている。外国中銀が足並み揃えて 「なりふり構わず」 になるためには、そこも足並み揃えて踏み込んでいく必要があるが、それは米国が同意する/しない以前に、「火元」 以外の中央銀行が取るべき態度ではないだろう。
  ただ、前号でも書いたように、切羽詰まって借りに来る外国金融機関にすれば、(主要国ソブリン債みたいに) 「安全確実な資産が手許に残っていれば、わざわざ東京に借りに来るか!」 だろう。外貨建て担保が受け入れOKになったとしても、その範囲がこれでは、日銀が請け合った 「600億ドル」 は大半が見せ金に終わるだろう。
  ギリギリのところで実効性を挙げようとすれば、リスキィな資産も受け入れる代わりに担保掛け目を思い切り下げるといった方法しかないと思うが、これも難しいだろう。担保掛け目は日々の相場を見て上げ下げするものではないだろうから、中央銀行が低い掛け目を公定すれば、今後のマーケットの値決めを阻害するのではないか。
  あれやこれや考えるうちに、ふと、日銀筋がこの情報をリークしたのは、先週末のスワップ取り決めを好感する反響があまりにも大きかったのでおぞましくなり、世間の期待値をそうっと下げたいからではないかと勘ぐりたくなった。

  ところで、ルービニ教授は、先週末に米国が流した不良債権買取機構 (第2RTC?) のニュースの後に書いたコラム で、「3月のベアスターンズ救済の後、マーケットは2ヶ月 “rally” した。7月のファニメ・フレディ救済策の 「発表」 の後は3週間 “rally” が続いた。先週のファニメ・フレディの実際の救済後は1日 “rally” しただけでキリ揉み状態に入った。・・・そしてAIGの救済の後、マーケットは “rally” すらしなくなった」 と書いていた。まるでジャンキーの末期症状みたいな書き方だが、先週末のスワップ取り決めとRTC類似の買取機構創設ニュースの 「合わせ技」 は少なくとも19日一日は “rally”、それも 「激上がり」 の効果をもたらした。
  しかし、ポールソン財務長官は買取機構創設を原案どおり議会と世論に認めてもらうために週末のメディアに忙しく登場して 「マーケットは “fragile” だ、これは焦眉の急で、あれやこれやと議論している暇はない」 等々と訴えたそうだ。口調にただならぬものが滲む。
  やはり先週末の “rally” は、今週は続きそうもないのだ。仮に議会が財務長官の必死の説得に応じて、超党派で休会入り前に法案を通しても、制度が “work” する前にさらなる金融機関の破綻と “ad-hoc” な救済が続くことは避けられないし、G7スワップ取り決めも上記のようなことだとすると、劇症 “Credit Crunch” の危機も去ってはいないのかもしれない。
  そして、一連の救済措置が「米国納税者」にもたらす負担にも視線が集まりつつある。「過去2週間に発表された措置によって、財政負担の増加は軽く1兆ドルを超えるだろう」 という権威ある債券アナリストの見立てもあった。RTCはG7共同出資といった展開になるのかという以上に、今後誰が米国債を買うのかという 「究極の問題」 も依然として眼前に立ちはだかっている・・・。
  2008年は世界中にとって、忘れたくとも忘れられない年になりそうだ。
平成20年9月21日 記




 

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