土曜日に聞いた興味深い講演の概要 | 紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに

土曜日に聞いた興味深い講演の概要

土曜日に某所で伺った、興味深い講演のまとめ。

長いので、「気軽に楽しめるブログ」を期待して見に来た方は、やめといた方がいいかもしれない。


昨年サブプライム問題が米国で発生したにも関わらず。

昨年1年間で見ると、米国株は6%上昇したにもかかわらず、日本株は11%下落した。

2008年の第二四半期の成長率は、米国は3%成長で、日本は3%のマイナス成長だった。


日本の景気の悪化の原因は、サブプライム問題の影響と片付けられることが多いが、上記の数字から日本固有の問題があると考えるのが正しいのではないか。


東西冷戦前後で考えると。

冷戦の頃は、市場経済に参加している人数はおよそ28億人。

冷戦終結後は、ロシアや中国などの大国が市場経済に参加し、60億人が市場経済ブロックに組み入れられた。


当然に、経済はグローバル化し、またプレーヤーの数が倍増したことにより競争はより激化することとなった。


グローバル化した経済というのは、資本の移動の自由度が極めて高いので。

成長に適した地域に、資本が急速に移動する。


たとえば、現在のアメリカのGDP対比での財政赤字は。

プラザ合意の頃から2倍になった。

プラザ合意の頃は、膨張する米国の財政赤字がドルの暴落を引き起こす可能性があるとされたが。

現在、財政赤字の対GDP比が2倍になっても、ドルの暴落の危険性は当時よりも少ない。

それはなぜかというと。

米国の民間部門の成長率が、他国のそれと比べて著しく高く、海外の資本を引きつけたことによる。

(講演では具体名は挙げられなかったが、たとえばGoogleなどの企業をイメージするといいかもしれない)

米国の民間セクターは、グローバル化からの利益を享受したことになる。


また、97年のアジア危機後の韓国では。

厳しい競争にさらされるグローバル市場での展開を進めた企業ばかりが生き残り。

国内市場に依存しすぎて比較的競争が少なかった企業は、生き残ることができなかった。

その後韓国では、グローバル化に当たって最低限必要となる能力である英語を学習するために、海外に母子で留学する家庭が増えたため、父親だけが韓国に残される「逆単身赴任」が増えた。


グローバル化とともに、大きな変化として技術の進歩が挙げられる。

今、電話での消費者からの問い合わせに応えるテレフォンオペレーターの一部は。

ブラジルの日系人を使っているケースがあるが。

テレフォンオペレーターのような仕事は。

必ずしも人件費の高い日本で行う必要はない。


技術の進歩、特にIT技術によって限界コストがゼロに近づいているために。

海外の安い労働力から日本の高コストの労働力を守ってきた障壁が、崩されつつある。

つまり付加価値の低い労働を提供してきた日本の労働者は、グローバル化と技術の進歩によって、望むと望まざるとに関わらず競争が激化した環境に置かれることとなった。


80年代の日本は、平均して4.5%成長を遂げた。4.5%成長というのは、18年かかって経済規模が2倍になる成長スピードである。

90年代の日本は、平均して1%成長だった。経済規模が2倍になるには、70年かかるスピードである。


90年代の日本では、10年で130兆円の財政出動がなされ、当面の需要ギャップを埋め合わせる政策がとられた。

GDPが500兆円なので、10年でGDPの25%が財政出動されたことになるが。

その結果として、10年間で10%しか成長しなかった。

つまり、25%の金を使って10%の成長しか達成できなかった。


2002年から2006年までの4年間は。

財政出動は実質マイナス、すなわち公共事業の額が抑えられたにもかかわらず。

4年間で4%成長を成し遂げた。


それはなぜ可能だったかというと。

小泉改革により、財政出動ではなく、政府のバランスシート調整が行われたことによる。


日本は世界の他の国と比べて、人口の変動要因が大きい。

大きな政府のまま高齢化社会に突入したら、若者に対する負担は非常に厳しいものになる。


また、130兆円ものバラマキ財政出動は、巨額の財政赤字を残した割には効果が著しく低く。


従って、バランスシート調整という「やらざるを得ない改革=reactiveな改革」に踏み出さざるを得なかった。

一方、小泉改革の中の郵政民営化は、「proactiveな改革=能動的な改革」だった。

一番大きく一番抵抗が強い金融機関を民営化することは、シンボリックかつ困難な課題を成し遂げると言うことであり。

大きな政府から小さな政府へと移行するにあたって、きわめて重要な改革と位置づけられた。


そのような改革が、ここ数年全く見られなくなっている。

これが、先ほど挙げた日本固有の問題の源泉である可能性が極めて高い。


この改革が格差の拡大を招いた、という批判は多いが。

改革しようがしまいが、付加価値の低い仕事は、グローバル化と技術の進歩によって海外に流出していく。

テレフォンオペレーターしかり、工場のアジア進出しかり。


従って、改革=悪、格差の拡大の原因、というのは間違っていて。

市場経済ブロックに組み込まれた労働者の数の増大と技術の進歩のもとでは、格差は広がらざるを得ない。


バランスシート調整をはじめとした痛みの伴う改革が行わなければ、さらなる財政赤字の増大とそれによる若者を中心とする次世代への負担の増大がだらだらともたらされ、より悪い結果となっていたはずである。


私は深く感銘を受けました。

さて、誰の講演だったでしょう?