石油価格の上昇――日本は生き残れるか?英語で読むコラム“Global Perspectives”(日本語版)

» 2008年05月19日 03時32分 公開
[Adam Carstens(アダム・カーステンス),GLOBIS.JP]

英語で読むコラム“Global Perspectives”とは?

 “Global Perspectives”は、国際的な舞台で活躍するビジネスリーダーを対象に、ビジネスに影響を与えうる話題について、短い論評と分析を提示するコラムです。世界では今、何が起きているのか、それらは読者の組織や仕事、人生にどのような影響を及ぼす可能性があるのか――。

 グロービス・インターナショナル・スクール講師のアダム・カーステンズ(と、時には特別ゲスト)が、英語でコラムを執筆。金曜日には英語の原文を、3日後の月曜日には和訳版を掲載します。この週末、じっくりと英語のテキストに取り組んでみませんか?

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2007年11月5日に掲載されたものです。アダム・カーステンズ氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 →Global Perspectives 英語版:Rising Oil Prices − Can Japan Survive ?

 市場では石油価格が1バレルあたり100ドルを超し、“石油高の時代”はしばらく続きそうだ。米国では既に、人々の暮らしに不安の影を落とし始めている。New York Times紙の一面を飾った、石油価格高騰に苦しむ家族の物語を一読してみてほしい。

 一方で、日本はこの石油価格高騰の荒波を乗り越えることができそうだ。そう考えるのには二つの理由がある。まず、日本の人口は増加していないため、石油に対する需要も増加せず、石油価格上昇に対するリスクが低いこと。そして、日本はここ10数年間、石油の輸入を増やすことなく、生活水準を向上してきたこと。この2つのトレンドが今後も続くことを疑う情報は、今のところない。

日本の石油消費の減少

 まず始めに、ある統計を見てみよう。石油消費国のトップ3は、米国、中国、そして日本である。この順番は、1995年に中国がロシアを抜いて3番目になってから変わっていない。それ以来、中国の石油消費量は、1日あたり300万バレルから700万バレルへと倍増。米国は、1日あたり1700万バレルから2000万バレルへと増加した。一方で、日本ではここ12年間で、1日あたり570万バレルから510万バレルへと減少している。

少子化問題による恩恵

 不思議なことに、日本のいわゆる“少子化問題”が、この石油消費量の減少というトレンドを生み出している。生活必需品の価格が上がるこの時代、日本はより少ない人々を養うだけでよい。世の中で懸念されている人口問題が、資源不足が予測される将来においてはむしろプラスに作用するということだ。石油価格の上昇に伴って、食料品や他の製品の物価も短期的には上がりはするが、それはさして重要ではない。人口学的な条件から、日本は石油価格上昇の嵐を乗り越えやすいポジションにいるのだ。

 少子化問題を懸念する論調をよく耳にするが、それは生活水準の低下を伴う場合にのみ、顕在化する問題である。人口がほぼ横ばいの現在も、日本はアメリカと比べても経済的に見劣りはしない。

 生活水準を図る指標として、労働時間あたりの生産性を計る方法がある。これは、労働者が1時間あたりに、自国の経済に対してどれだけの価値を生み出しているのかという指標である。これらの統計を2007年のドル価格で換算すると、1991年以来、日本の労働生産性は米国の70%あたりの数値で安定している。日本は、石油の消費量が減少している間も、世界一の経済力を持つ米国をきちんと追走しているわけだ(トータル・エコノミック・データベースを参照)。

米:石油高は国家の“非常事態”

 日本に比べ、米国はひどい状況にある。米国では、この夏のガソリンの価格は1ガロンあたり4ドル(日本で言えば、1リットルあたり約112円)になるだろうと報じられている。日本ではこのニュースは、それほど深刻には受け取られないかもしれないが、米国では、これは非常事態に近い。冒頭で紹介したNew York Times紙の記事では次のように述べている。「エコノミストたちは、可処分所得におけるエネルギー消費の割合がゆっくりと上がり始めているという。12月、1985年以来最も高い6.1%に達した」。

エネルギー問題における日本の優位性

 アメリカの人口が、その広大な国土に散在しながら、毎年3百万人ずつ増え続けているという事実を考えてみよう。この事は、アメリカがこれまでの生活水準を保つためには、中国、ロシア、インドやサウジアラビアなどの石油消費が増大している国々と、否応なく残った資源を争う事を意味する。

 それに対して、日本の石油消費量は、減少とまではいかなくても、平行線をたどるだろうと考えられている。もう一度強調するが、日本では、人口がほぼ横ばいでも、一人あたりGDPの値や生活水準に大きな影響を与えていない。さらに、日本の人口のおよそ半数が、国土全体の2パーセントに過ぎない都市部に集中しており、今後も乗用車を個人が使う必要性は下がり続けるだろう。

 要するに、ガソリン価格の上昇によって追い詰められる国がある一方、日本は大きな影響を受けなくて済むだろうということだ。日本経済は、資源の保存や技術の進歩など、将来のエネルギー問題に対しても、様々な“打ち手”を持っている。そのような面から考えると、たとえエネルギーコストが多少上がったとしても、日本はアメリカを初めとする他の先進工業国に対して十分ましな位置にいると思われる。(英文対訳:棚原潤)

Adam Carstens(アダム・カーステンス)

 サンダーバード経営大学院修士課程修了(MBA)。米国の経営コンサルティングファーム、アテンション・カンパニー/ノース・スター・リーダーシップ・グループ、にて多数のグローバル・コンサルティング・プロジェクトに従事。その間、リサーチ/執筆活動に携わり、Japan's Business Renaissance (邦訳: 「サムライ人材論」)、Got Game: How the Gamer Generation Is Reshaping Business Forever、など数冊の経営本の執筆に関わる。

 また、南カリフォルニア大学やサンダーバード経営大学院にて、技術経営、戦略論などの科目設計、講師などを経験。その他、米国下院議員、上院議員の元で、政策立案・コミュニケーションや、アクセンチュアにおいてもプロジェクトに携わる。


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