“なし崩し”を絵に描いたような流れ・・・

つい5年ほど前に、「禁断の刑事罰」が盛り込まれたばかりだというのに、早くもここまで来た。

「企業の技術情報の流出を防ぐため、経済産業省が検討している新法の骨格が明らかになった。現行の不正競争防止法は会社の技術情報を社員や元社員らが無断で業務以外に使用・開示する行為を禁止しているが、新法ではその前段階である情報の不正取得も禁止対象とする。刑事手続きで一部情報を非公開にする特例も設ける。同様の規制は欧米などで整備済みで、日本企業の競争力を保つように知的財産権の保護を強める。」(日本経済新聞2008年9月12日付朝刊・第1面)

前回の改正の時点で既に噂にはなっていたし、お役所方面から課されるここ数年のアンケートときたら、現行法の刑事罰をより強化する方向に誘導する意図が見え見えの誘導尋問ばかりだったから、ある程度予測はできたのであるが、それにしても・・・という思いはやっぱりある。


記事によれば、

「新法で禁止するのは、企業の社員や元社員らが公表されていない自社の技術情報を無断で複製したり、移動させたりする行為」

ということで、これだけ見ると、現在民事的規制しかかかっていない行為よりもはるかに“一般的な”行為が処罰の対象になっても不思議ではない。


そもそも、平成15年の不競法改正で導入された刑事罰規定が慎重な内容に留まったのは、保護の対象とされるべき「営業秘密」概念の不明確さゆえ、であった。


何が保護されるべき情報といえるのかを画する確たる基準がない以上、従業員の日常的な行為と密接にかかわるような行為にまで「刑事罰」という劇薬を及ぼすと、必要以上に萎縮効果を生じさせることになってしまう・・・


そんな当たり前の危機感が、立法者を自重させたはずではなかったか。



こういった動きの背後には、我が国の名だたる技術系大企業の熱心なロビイング活動と、“憂国の士”を気取る一部の政治家たちの暗躍が見え隠れする。


だが、ここ数年で一気に罰則強化を図らねばならないほど、営業秘密の管理をめぐる社会事情は変化したのか?


国際競争に勝てずに苦しんでいる企業があるのは事実だが、その理由のほとんどは、営業秘密云々以前の、もっと単純なところにあるのではないのか?



説明を聞けば聞くほど疑念が湧いてくる今回の法改正の動き。


企業に生きる一市民としては、願わくば審議会の場で、良識ある先生方による冷静な議論がなされることを、と、切に願う。

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