「Search Engine Strategies」(通称SES)と呼ばれるイベントをご存知だろうか?

 これは「検索エンジンをマーケティングに活用するための戦略」について、業界関係者が集まって議論をするカンファレンスで、モーターショーのように、世界の主要都市で開催されている。中でも、米国シリコンバレーの中心地であるサンノゼで、毎年8月に開催されるSESは、期間も4日間と長く、SESの中でも最大規模のイベントである。2008年も8月18~22日に開催された。

1日目のセッション「Semantic Search: How Will It Change Our Lives?」。SESのほとんどのセッションは、このように複数のパネラーによるディスカッションを中心に進められていく
●1日目のセッション「Semantic Search: How Will It Change Our Lives?」。SESのほとんどのセッションは、このように複数のパネラーによるディスカッションを中心に進められていく

 今年のSES全体に共通していたテーマを挙げるとすれば「Googleの次に来るものは何か」と「オフラインやディスプレー広告の再評価」という2点に集約されるだろう。

 周知の通り、米国では検索連動型広告がネット広告費の約41%と最大の割合を占める一方、全検索数の60%以上はGoogleから行われている。

 さらに、検索数で約20%のシェアを持つYahoo!までもが、Googleから検索連動型広告の配信を受けると発表したことで、米国においてネット広告を出すことは、Googleに広告を出すこととほぼ「同義」になりつつある。

 検索連動型広告市場がGoogle 1社に支配されることに危うさを感じ始めた広告主と、このままではビジネスの機会を失いかねないほかの検索エンジンやネット広告事業者たちが、「Google以外に頼れるもの」を巡って議論を重ねたというのが、今年のSESにおいて非常に特徴的な点であったといえるだろう。

「Google以外に頼れるもの」とは?

 SES初日には「What Next?」というトラックが設けられ、検索ユーザーの意図や背景を理解しようとするセマンティック技術や、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディアを活用した広告サービスの可能性が論じられた。その背景には、こうした新たな技術やサービスが広がることで、ネット広告におけるGoogleの支配力が相対的に弱まるのではないかという「期待」があるのは言うまでもない。

1日目に設けられた特別トラック「What Next?」。Googleの次に来る新たな技術やサービスの可能性について様々な確度から論じられた
●1日目に設けられた特別トラック「What Next?」。Googleの次に来る新たな技術やサービスの可能性について様々な確度から論じられた

 2日目に行われた「IT業界の巨人たち」と題された公開討論会では、昨年までSESの議長を務めたダニー・サリバン氏や、Googleのマット・カッツ氏ら、業界の「大物」が一同に会し、今後、Googleに取って換わる企業やサービスは現れるのかというテーマで熱い議論が交わされた。

 具体的には、
・莫大(ばくだい)な人的・経済的資源をもつマイクロソフトでさえ、いまだなし得ていないことを、ほかの企業にできるはずはないだろう?

・複数の有力企業による「競争状態」こそが資本主義の正しい姿だといいながら、どうして検索業界のことになると、「Googleに勝てないなら、存在する価値が無い」といった極端な議論になってしまうのか?

・中国や日本ではGoogleが覇権を握っているとは言えないが、だからといって、中国最大の検索エンジンである百度(Baidu)が「Googleキラー」ということになるのか?

など議論が百出する中で、1時間の討論はあっという間に時間切れとなってしまった。裏を返せば、費用対効果やリーチの点で、検索よりも優れた広告手段として、全員の意見が一致するような技術やサービスは現時点では見当たらない、とも言えるだろう。