“スムコ”にこそならなかったが・・・

2年ほど前に紹介した、「サムコ対SUMCO」の商標権侵害訴訟。


被告が出願した一部の商標が極めてレアな判断によって登録されていたこともあり*1、侵害訴訟の行方にも注目していたのであるが*2知財訴訟にしては異例の長い審理、協議を経て、このたび和解が成立したようである。


原告・サムコ社のプレスリリースに、その内容が紹介されているのだが、
http://www.samco.co.jp/news_events/2008/20080825sumco.html
その骨子を見ると、

(1)被告は、自社社名を表記する場合には、「株式会社SUMCO」、あるいは「SUMCO」と表記することとし、カタカナ表記(「株式会社サムコ」あるいは「サムコ」など)や平仮名表記(「株式会社さむこ」あるいは「さむこ」など)は使用しない。
(2)今後4年間(平成21年1月1日〜平成24年12月31日)、下記の誤認混同防止措置を講ずる。
a 今後4年間(平成21年1月1日〜平成24年12月31日)、被告は、その名刺や封筒、会社紹介小冊子あるいはホームページ等において下記商標を使用する場合、「シリコン・ウェーハの」、または「シリコン・ウェーハで頂上(サミット)を目指す」、あるいは「Silicon Wafer」とのキャッチフレーズを付記する。
b 被告東京本社等の看板表記等で、和解で特定されたものにつき、撤去や表示変更をする。
c 被告ホームページに、被告と原告とは資本関係、提携関係等のない別会社である旨の注意喚起表示を掲載し、また「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)に一定間隔で同様の注意喚起広告を掲載する。
(3)被告保有の「サムコ」の文字を含む商標登録を抹消し、出願中のものは取り下げる(但し、下記の登録商標[第9類半導体ウエハにつき登録されている商標登録第5025218号]については、防御的に被告の保有を認める。
(4)今後4年間(平成21年1月1日〜平成24年12月31日)、取引先等において原告と被告とを取り違える事例が発生した場合には、原告から被告にその旨の通知をしたときには、被告は当該取引先に両社がいかなる関係もない会社であることを説明して取り違えの解消措置をとる。
(5)被告は原告に対して、双方で合意した和解金を支払う(金額不開示)。

おそらく、裁判所から相当厳しい心証が開示されていたのであろう。


混同防止措置は義務付けられるは、和解金の支払いは命じられるは、で、被告側にとっては完全敗訴に等しい内容である。


元々「シリコン・ウエーハ」に特化した会社として設立されたのだろうし、将来的に業態を拡大するつもりもないのだろうから、これで良いのかもしれないが、これが普通の事業会社だったら、2aのような措置ですら到底受け入れられないだろう。


被告保有の商標についても原則抹消ないし取り下げ、という厳しい措置が講じられている。


審決取消訴訟を提起してまでこだわった、第9類(半導体ウエハ)の商標については辛うじて守られているが、あまり救いにはなっていないのが悲しいところ。


こうなると、社名を決める時に、何でちゃんと商標を調べなかったの? と言いたくなる。


特定の商品の名称であればまだしも、コーポレートアイデンティティを決する重要な商標を決めるにあたって、原告の存在を看過していたのだとすれば、リスク意識の欠如甚だしいというべきだろう。


以前のエントリーでも触れたように、「SUMCO」という会社は住友と三菱の血を引いた立派な財閥系企業のはずなのだが・・・。


商標をなめたらあかん。


これは、そんな教訓を与えてくれる貴重な事例として、胸に刻んでおきたいケースの一つである。

*1:東京高判平成16年7月26日

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060527/1148671863前半のエントリー参照のこと。

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