絶望した! 日本の経済学者に絶望した!

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20080827

あまりにもひどい釈明に唖然とした。これが著書も多数ある経済学者でかつ数学者の文章なのか。学者だったらrejectすると言うが、たしかに査読者であればどんな意見でも出せるだろう。しかし、小島先生の論を論文にしたら同じようにrejectされるだろう。あまりにも論理に穴が多すぎるからだ。

まず、言い訳がひどい。「東洋経済に掲載する記事が否定されないためにバーナンキ背理法が常に成り立つのか疑問に思い調べた」にも関わらず「でも安心していい。ぼくは均衡動学経路はあると思っている」などとなぜ堂々と言えるのだろうか。均衡動学経路があるならバーナンキ背理法は正しいと自身でおっしゃっているのだから、東洋経済の記事は間違っているということになる。すぐに記事を差し止めるべきだろう。

また、小島先生は数学者にも関わらず背理法を正しく理解されているのだろうか。背理法の証明に必要な前提条件は仮定の命題が真であることだ(なんせ、単なる論理式ですから。それとも高度な数学理論によれば、別だとでも言うのか?)。なぜ「中央銀行国債をいくらでも購入し続けることが可能」であることを示すのに均衡動学経路の証明が必要なのだろうか。政府が国債を発行し、中央銀行が買い入れればよいだけの話だ。可能であることさえ示せればよいのだから、政府が国債を発行しないなどは考えなくても良い。

また、貨幣価値がゼロに限りなく近づくのだから、当然物価は無限大に発散する。これはモデルがおかしいわけではない。なぜなら現実にも起こりえる。ようするに貨幣での取引が成立しない状態ということだ(ただし、それでも国債と貨幣の交換は可能である。国債も貨幣も共に実態がない仮想のものであるから、帳簿上で金額の付け替えをし続ければよいのである)。貨幣がなくても物々交換を行うことはなお可能だ。

私が思考実験した限りでは、バーナンキ背理法にとって最も厳しいケースは、日銀が国債を買い続けるにも関わらず、政府が国債によって得たお金を絶対に使わない場合である(なお、国民がインフレを信じるか否かは実は関係ない。国民がインフレを信じない場合、最終的に財をすべて政府が買い取ってしまい取引が成立しなくなるため、貨幣価値がゼロ=インフレになる)。この場合、中央銀行国債をいくら購入し続けても実物資産と交換されないため、インフレにならない可能性がある。

しかしながら、このケースでもバーナンキ背理法の否定とは言い難い。第一に、であれば政府が国債によって得たお金を使うという条件を追加すればよいだけである。第二に交換されないことが確定しているのだから、すでに中央銀行が発行したものは貨幣とは言えない。中央銀行は定義なしに登場しているが、貨幣の発行が行える組織であることは当然前提となっているであろうから、貨幣でないものを発行している組織は定義からし中央銀行ではないのである。

というわけで、やはりバーナンキ背理法は否定できないと私は考えるがいかがであろうか。ちなみに、バーナンキがこう言っているから云々というのは大変くだらない話だ。経済学は歴史学ではない。原典にあたることが重要な場合もあるが、理屈の話に原典など不要であろう。

[追記] 飯田先生によれば小野理論ではバーナンキの背理法が成り立たないとのこと。うーむ、なぜだ。

バーナンキ背理法が成立しない状況だと、各国中央銀行が世界中の資産を誰よりも先んじて買いまくるという謎の世界大戦が勃発するはずなのだが……。しかも、通貨さえ発行できればよいので、アフリカ辺りから大量参戦してくるだろうし。