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Googleは検索広告以外で利益を出せるのか?

» 2008年08月26日 16時11分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 米Googleは世界最大の検索エンジンとして広告事業で大きな利益を上げている。だが業界観測筋の間では、「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)型メッセージング&コラボレーションツールのGoogle AppsやYouTubeといった各種のベンチャー事業を検索事業の売り上げで支える」というGoogleの従来のやり方が長期的に持続可能かどうかについて疑問視する声も上がっている。だがGoogleを見限るのはまだ早い。同社はAndroidなど重要なアプリケーション開発の取り組みを進めており、Androidは今後モバイル&ワイヤレススマートフォン市場で大ヒットする可能性もある。

 Googleは1つしか才能のない企業なのだろうか――? Googleを競争から除外しようと、これまでMicrosoftの複数の幹部がこの問いに対する答えが「イエス」であるかのように主張しているが、Googleはその「唯一の才能」とされる有料のキーワード広告ビジネスのおかげで2007年にはオンライン広告で約176億ドルを稼ぎ出している。

 米国の検索市場におけるGoogleのシェアは約70%。そのシェアのおかげで同社は驚異的な広告収入を上げている。だがSan Jose Mercury News紙の8月22日付の記事では、検索広告以外の事業におけるGoogleの財務の健全性について事情通が疑問を投げ掛けている。

 この興味深い記事はクリス・オブライエン氏の執筆によるもの。同氏は記事で幾つか議論のポイントを提示している。

 まず1つ目のポイントとして、オブライエン氏はGoogleの広告収入の伸びが第2四半期に減速し、利益幅も、今後減少が続く可能性を指摘している。Googleは通常よりも弱い四半期決算を発表した後でもあるため、わたしは今非常ボタンを押すことはしたくない。結論は通年の決算が出る2009年1月まで保留しよう。

 2つ目のポイントは、Googleが米証券取引委員会(SEC)に提出した書類において、「AOLへの10億ドルの投資で株式評価減が発生した可能性がある」との考えを示している点だ。つまり、この投資は失敗したということだ。この点については異論はない。AOLが徐々に衰退していくのを見ているのはつらいことであり、わたしはGoogleも含め、AOLに投資した会社や人物に同情を禁じえない。

 3つ目は、Googleがこれまでに数々の企業を買収してきた点だ。そのうち2社の買収に同社は合わせて20億ドル以上をつぎ込んでいる。GoogleはYouTubeを16億5000万ドルで買収し、SaaS型セキュリティサービスを手掛けるPostiniを6億2500万ドルで買収した。「YouTubeのほかGoogle Checkoutなどの資産は実質的なものではない」とオブライエン氏は指摘している。つまり、これらの資産はGoogleに利益をもたらしていないということだ。

 Googleのエリック・シュミットCEOは常々、動画広告の収益モデルを解明してYouTubeを利益につなげることの重要性を指摘している。だが同氏によれば、ビデオ内広告のテストではその将来性が確認されているにもかかわらず、同社ではまだ誰も動画広告の要となるポイントを見定められずにいるという。

 そして、まだ利益を生み出すには至っていない小規模の買収がほかにもうんざりするほどある。例えば、VoIPサービスのGrandCentralのほか、モバイルソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の新興企業ZingkuJaikuなどがそうだ。そしてGoogleがAndroidを買収したのはもう3年以上前のことだ。

 AndroidモバイルOSのソフトウェアスタックは存在しているが、Androidを実行する端末はまだ市場には出回っていない(ただし、この状況も今秋には変わる見通しだ)。確かにこうした開発には時間がかかるものなのだろう。だがGoogleほどの人材を抱える企業であれば、3年もあれば十分なはずだ。

 オブライエン氏は確かにいい点を突いている。もっとも、これはコラム記事であるにもかかわらず、オブライエン氏は弱気筋のアナリストであるトリップ・チョードリ氏の発言にしか言及していない。チョードリ氏は記事の中で、Googleが検索以外で成功した分野を挙げるよう促している。まったく! まるで、Googleの3分の2はオンライン広告の成功の波とともに押し流されてきた流木ででもあるかのような言いようだ。

 さらにチョードリ氏はGoogleの取締役会と経営幹部を刷新する必要性を指摘している。目下Googleが享受している高い地位を考えれば、ほかにこの意見に同意する人がいるとは思えない。ただし少なくとももう1人の評論家はGoogleの成功が片寄ったものであるとの見解に同意している。

 Googleの動向を注意深く追っていることで知られる技術評論家のスティーブン・アーノルド氏は8月25日付のブログ投稿でオブライエン氏の記事に同調している。とりわけ、アーノルド氏は「Googleは検索事業を中心に帝国を築き上げ、その波に9年以上乗り続けているが、その一方でほかの事業はいまだに成功していない」と指摘している。

 実際、Googleが利益の大半を検索広告事業に依存していることを考えれば、オンライン広告市場の崩壊やMicrosoftをはじめとする手ごわい競争相手の登場をものともせずGoogleがその地位を持続していることに対する批判的な意見に反論するのは難しい。

 だがオブライエン氏、チョードリ氏、アーノルド氏はいずれもGoogleに関する重要なポイントを考慮に入れ忘れている。それは、「デスクトッププロダクティビティ&コラボレーションツールを手掛けるベンダーはMicrosoftだけ」との認識にGoogleが戦いを挑んでいるという点だ。

 どういうわけか、オブライエン氏の記事はGoogle Appsについては一切触れていない。われわれは今のところ、GoogleがGoogle Appsでどれほど多くの(あるいは、それを言うなら、どれほど少ない)利益を上げているかは知らない。Googleには、広告ビジネスと比べて見劣りすることが分かり切っている数字を公表する気などないからだ。何といっても、1ユーザー当たり年間50ドルでプレミアムエディションの選択肢を提供してはいるものの、GoogleはGoogle Appsを無償で公開しているわけだし。

 だがわたしがGoogle Appsの数人の顧客に話を聞いてみたところ、ここのところ何度かサービスの中断や機能停止が発生しているにもかかわらず、彼らはオフィススイートの選択肢が1つ余分に提供されているということがうれしいのだという。「自分たちのニーズを満たすにはこれで十分だ」と彼らは語っている。

 いずれは、これが大きなビジネスへと拡大していくはずだ。そのほか、Google Appsのセキュリティ基盤であるPostiniやSaaS型のワープロやプレゼンテーションツールなども利益を生み出すことになりそうだ。

 わたしは何も、今年中あるいは来年中にGoogle Appsが数十億ドル規模のビジネスに拡大すると言っているのではない。だが、Google AppsやYouTubeなどGoogleの冒険的投資が何かしら成果を出すまでの少なくとも向こう3〜5年の間はGoogleは強力な検索広告事業で持ちこたえられると考えている。

 アーノルド氏でさえ、ブログ投稿で次のように語っている。

 「わたしはまだGoogleを完全に除外するつもりはない。Googleはあと一歩で商用パブリッシャー兼動画制作会社になれる。Googleは既に多数の冒険的事業を切り捨て、今は利益につながりそうな分野にのみ力を注いでいる。だからこそ、Googleは短期的に見ても長期的に見ても脅威となり得るのだ」

 わたしはこの意見に大賛成だ。ナレッジ共有サイトのKnolやYouTubeなど各種のサービスでGoogleはますます新しいメディア企業の様相を呈しつつある。

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