主要テレビ局の「スポット広告の減り具合」をグラフ化してみる

2008年08月17日 12:00

テレビ局イメージ先に何回かに分けて、2009年3月期(2008年4月~2009年3月)・第1四半期(2008年4月・5月・6月)における主要テレビ局5局の公開決算データを色々な面から斜め読みしてみた。今回は一連のシリーズの最後として、もっとも注目されている「スポット広告」を中心に図にまとめ、現状をざっくりと把握してみることにする。

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詳細は【主要テレビ局銘柄の第1四半期決算をグラフ化してみる……(1)スポット広告と下方修正】で解説しているが、おさらいの意味でもう一度簡単にまとめてみる。テレビコマーシャル(TVCM)には提供方法で大きくわけて「スポット広告」と「タイム広告」の方式がある。

タイム広告とスポット広告
タイム広告とスポット広告(再録)
タイム広告……一極集中
スポット広告……ばらまき

タイム広告」とは「番組提供広告」とも呼ばれ、放送される番組をスポンサードするもの。広告費をテレビ局経由で番組に提供してその番組を後押しする代わりに、その番組内で自社の広告を出す、というもの。一社で独占する場合もあれば、複数社で提供する場合もある。放送時間や視聴者性向をある程度絞れるため、効果的な広告展開が期待できるが、人気のある・効果の高い番組の広告費は高め。

一方「スポット広告」とは、番組と番組の間に存在する時間帯(ステーションブレークと呼ばれる)に放送されるもので、どこかの番組にも属さない。詳しくは「スポット契約」(ある時間枠に放送される)と「フリースポット契約」(時間などは指定されず、一定期間内に指定した本数が放送される)の二種類があるが、「番組の色がほとんどつかない、ばらまき式広告」と考えれば良い。その性質上、短期決戦的な広告展開(新製品の発売間近な時、期間限定のキャンペーン)に使われる。

各テレビ局とも「不景気などが原因でスポット広告が激減したから、業績が悪化した」とコメントしている。それが本当にその通りなのか、昨年度と今年度の同一四半期における売上を、「タイム広告」「スポット広告」「その他」の区分でざっくばらんに切り分け、棒グラフ化したのが次の図。なお今記事ではテレビ局の並びを証券コード順ではなく、関東地域のチャンネルの若い順にさせていただいた。ご了承願いたい。

第1四半期売上構成比(2008年度・2009年度)
第1四半期売上構成比(2008年度・2009年度)
※(2009年度=2009年3月期=2008年4月~2009年3月)

元データはあくまでも「売上」であり、ここから諸経費が引かれてはじめて「利益」になる。利益率の違いもあり、これがこのまま「儲け」に直結するわけではないが、勢いを確認する指標にはなる。

各局とも「タイム広告」にはさほど変化はないものの「スポット広告」が大きく減少している。売上が昨年とさほど変わらない局は、「スポット広告」の減少分を他の事業で穴埋めしているのが良く分かる(TBSの不動産、テレビ朝日の「相棒」などが好例)。

次に各局の「タイム広告」「スポット広告」の前年同期比をグラフ化する。今第1四半期において、どれだけ「スポット広告」が減っているかが良く分かるはずだ。似たような図は先に【主要テレビ局銘柄の第1四半期決算をグラフ化してみる……(2)業績斜め読みとスポット広告の落ち込み】でも掲載したが、今回は「タイム広告」の変化率も合わせて掲載。

2009年第1四半期におけるタイム・スポット広告の前年同期比
2009年3月期・第1四半期におけるタイム・スポット広告の前年同期比

こちらのグラフなら、より一層「タイム広告」が横ばいなのに対し「スポット広告」が落ち込んでいるのが分かる。特に【TBS(9401)】の落ち込み方が著しい……が、どの局も前年同期比で10%前後だから「危機感」という観点では大した差はないのかもしれない。もっとも【テレビ東京(9411)】は「タイム広告」の下落度も大きく、「もう慌てる時間だ」状態。

「前年比率で落ちてるのは分かった。それでは売上全体にどの程度影響があるの?」という疑問がわいてくるだろう。そこで作ったのが次のグラフ。「タイム広告」「スポット広告」それぞれを前年同期と比べ、今年分における増減を「今年度第1四半期の売上全体」に占める割合で表したもの。例えばこのグラフ上の数字で「スポット広告:-10%」と出ていたら、スポット広告の今年における前年同期からの減少分で、今年度第1四半期の売上全体の10%に相当する額が減ってしまっているという計算。

前年同期比の増減が今期売上に占める割合
前年同期比の増減が今期売上に占める割合

一番上の「第1四半期売上構成比」のグラフと見比べてほしいのだが、各局によって「タイム広告」「スポット広告」の売上高構成比は微妙に異なる。例えばTBSは比較的「スポット広告」の割合が高く、【日本テレビ放送網(9404)】【フジテレビ(4676)】、そしてテレビ東京は「タイム広告」の方が売り上げが大きい。個々の番組の人気度や、当初から企業提供の番組が多いからだと思われるが、この数字のみだけではそれを断言することはできない。

ともあれ、各局の「タイム広告」「スポット広告」の割合の違いにより、それぞれの広告の「前年同期比の”減少率”」と売上そのものに与える影響とは違う様相を見せてくる。例えばその局で「スポット広告」そのもの売上高絶対額が巨大なものなら、”減少率”がさほど大きくなくとも、額は大きなものになる。

良い事例が【テレビ朝日(9409)】。「スポット広告」が広告費全体に占める割合が大きいため、減少率はフジテレビより下なのにも関わらず、売上全体に占める割合はフジテレビよりわずかながら上になってしまっている。テレビ朝日自身は「その他」の部分でずいぶんと利益を上げて全体的な数字はそれなりに良さげではあるが、放送事業部内では顔が真っ青になっているはずだ。

また、テレビ東京は他局と比べて非常に「タイム広告」の割合が大きいため、「スポット広告」の減少分では売上高全体にそれほど大きな影響を与えていないものの、「タイム広告」も大きく減少しているため、結局全体的な放送事業における広告費の減退が占める割合は大きなものとなってしまっている。


これらの図表などから分かることは、

・スポット広告の下落率はどの局も前年同期比で1割前後という「目もあてられない」状況にある
・放送事業の広告費以外で大きく稼げる「ドル箱」がある局は、スポット広告の下落をどうにか穴埋めできている
・日本テレビは意外に「スポット広告恐慌」への耐久力が強い。逆にテレビ朝日はもろい傾向にある
・テレビ東京は広告の減退傾向がタイム広告にまで及んでおり、放送事業全体の財務体質が問われている


などとまとめることができよう。

テレビ局イメージ「スポット広告」の急激な減少は、これまでのテレビ局関連の記事でも触れているように、不景気が第一義的なもので、ついでインターネットや携帯電話などの(ばらまきという観点で特に)ライバル的な広告媒体に予算を奪われているのが要因(詳細は[このリンク先のページ(tbs.co.jpなど)は掲載が終了しています]の後半でまとめている)。

テレビ東京で見られる「スポット広告だけでなくタイム広告も落ち込んでいる」減少が果たしてテレビ東京だけのものなのか、それとも他局にも及びうるものなのか、現時点ではわからない。仮に後者の傾向が今後の四半期決算で見られるともなれば、他局も放送事業そのものへのてこ入れや発想の転換など、大規模な改革が早急にもとめられることになるだろう。

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