Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

麻生、中川(秀)、与謝野のトリレンマ

 自民党麻生太郎幹事長が平成23年度にプライマリーバランス(PB、基礎的財政収支)を黒字化する政府目標の先送りを提案したことを受けて、経済成長重視の「上げ潮派」のリーダーである中川秀直元幹事長がさっそくかみついた。新閣僚に与謝野馨経済財政担当相ら「財政規律派」が多数登用されたこともあり、自民党内の路線闘争はますます過熱しそうだ。


 中川氏は6日、自らのホームページに「首相の明確な経済財政路線に反対する人が党執行部にいるとは信じられない」と記し、名指しこそ避けながらも麻生氏を厳しく批判。PB目標の先送りを「政策論議の域ではなく『路線転換、即政局』を意味する」と断じた。その上で、福田康夫首相がPB目標堅持の姿勢を明言したことを強調。「首相の言うことが正しい。首相と党執行部の合意形成を注視したい」と麻生氏らに警告した。


 これに対し、麻生氏は6日、福井市内で講演し、「今度の内閣改造により、政調会長保利耕輔氏、経済財政担当相に与謝野氏ら経済や景気を理解できる方が就任した」とほめちぎり、上げ潮派の「知恵袋」である竹中平蔵総務相を「私とは全く意見が違う」と批判した。その上で「財政の収支均衡は必ずやらなければならないが、いつやるかは別の話だ。経済のパイを大きくしてその中から借金を返済するのが正しい」と語り、積極財政の有効性を重ねて強調した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080807-00000058-san-pol



「財政の収支均衡は必ずやらなければならないが、いつやるかは別の話だ。経済のパイを大きくしてその中から借金を返済するのが正しい」と麻生氏が言ってますが、これまでの「上げ潮派」や「財政規律派(増税派)」の主張を考えると、経済成長を優先して「経済のパイを大きくしてその中から借金を返済する」というのが「上げ潮派」である中川(秀)氏や竹中氏の主張であり、増税で借金を返済するというのが「財政規律派(増税派)」の与謝野氏の主張であったはずです。それなのに麻生氏が「上げ潮派」を批判して「財政規律派(増税派)」を褒めちぎるのは、矛盾しているように思えます。


ただ、この記事では触れられていない金融政策やインフレの話を加えて考えてみると、麻生氏、中川(秀)氏、与謝野氏の関係が整理できるように思います。


まず、日本の経済政策が直面している課題として、財政再建、経済成長(景気回復)、インフレ抑制(マイルドインフレもダメという立場)の3つを取り上げてみます。この3つは同時に追求することができないトリレンマの関係にあると思います。
そうすると、麻生氏、与謝野氏、中川(秀)氏の立場は、次のように整理できると思います。麻生氏は財政出動による景気回復を唱えているため、財政再建軽視となり、与謝野氏は増税による財政再建とインフレ阻止を唱えているため、財政政策も金融政策も使えず、経済成長軽視となります。中川(秀)氏はリフレ政策と小さな政府を主張しているため、インフレ抑制軽視となるでしょう。従って、次の表のようにまとめられると思います。

  財政再建 経済成長 インフレ抑制
麻生氏 軽視 重視 重視
与謝野氏 重視 軽視 重視
中川(秀)氏 重視 重視 軽視



麻生氏は財政再建軽視で経済成長重視ですから、ここだけ見ると財政再建重視で経済成長軽視の与謝野氏とは対立するように思えますが、インフレ抑制という点では両者は共通しているため、2人は今はインフレを問題視して関係を強化しているのでしょう。だから、麻生氏も与謝野氏も口では景気回復や財政再建を言ってますが、行動を見るとインフレ阻止を優先していることになります。だから麻生・与謝野ラインというのは、反リフレ政策ということですね。


ただ、麻生氏が景気回復を無視したり、与謝野氏が財政再建を無視したりすることはありえませんから、今後両者がインフレ阻止から景気回復や財政再建へと軸足を移せば、麻生・与謝野ラインにはすきま風が吹くことになるでしょう。口ではそっちを叫んでいるわけですから、いつまでも行動との矛盾をそのままにもしておけないでしょうし。
中川(秀)氏はそのときに2人の間に手を突っ込んでくるのでしょうが、麻生氏がこのままインフレに対してアレルギーを持ったままだと、中川氏は歳出削減による小さい政府を優先して、激しく対立しているはずの与謝野氏と同床異夢の関係を築いてしまうことも考えられるでしょうね。そうなれば麻生氏は孤立してしまいます。
だから麻生氏は政権を目指すのであれば、早い目にインフレアレルギーを克服して、GDPデフレータやコアコアCPIベースで2%程度のインフレは許容すべきだと思います。そうなれば、「上げ潮派」と組んで金融政策、財政政策の両面で景気回復を優先する政策を打ち出せるでしょう。麻生氏の近くには、安倍元首相や菅義偉氏といった「上げ潮派」とのパイプ役になりそうな人もいますから。


麻生氏がその主張通り本当に景気回復を重視しているのか、それとも口とは違ってインフレへの嫌悪感を優先しているのか、その点が麻生政権が誕生するかどうかのキーポイントになるのではないでしょうか。