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改造内閣の話でも

 福田改造内閣が今日2日に発足しました。改造内閣と政治の今後について、四方山話をするコーナーを作ることにしました。

 昨夜、都内某所でラーメンを食べた後に街をぶらぶら歩いていたら(要は、飲みに行くまでの途中でしたが)「朝日新聞」から取材の電話が掛かって来ました。今日の朝刊の記事に、私の話は以下のようにまとめられています。

「新鮮みがない。この顔ぶれで本当に衆院選が戦えるのか」というのは経済評論家の山崎元さん。「支持率上がりそうな要素はない。伊吹さんと谷垣さん、与謝野さんの処遇に注目していたが、消費税の増税と財政再建を急ぐのだとはっきりした。経済や株にとってはプラスではない。選挙前だから直ぐに増税するとは言わないと思うが、『今度こそやる』という布陣なので『(選挙終わったら)消費税増税内閣』」(朝刊、35面)

 携帯電話で20分くらい話しました。その後、お酒を飲んでいたら確認の電話が入りました。取材は十分丁寧でしたし、上記は、私が電話で聞いて確認した内容ですが、もちろん、字数的に言い足りないこともありますし、その後に、あれやこれやと思ったこともあります。

(1)麻生幹事長の起用
 報道的には今回の目玉とされていますが、さて、ご当人にはどんな利害得失があったのでしょうか。麻生氏の場合、もともと大人数の派閥を抱えている人ではないので、今回も入閣か党執行部を断ると存在感が薄くなってしまうという利害を抱えているということはあるでしょう。
 一方、幹事長は次回の総選挙の責任を取らされるポジションなので、次に負けると麻生総裁の目はないし、勝ったとすると福田政権が続いてしまう、という意味で、「ポスト福田」を狙うには、どう転んでもダメなポジションに嵌ってしまったという説もあります。
 私としては、半分この説に頷きつつも、麻生氏がそこまで割の悪い話なのにこのポストを受けるのはなぜか、とも考えてみたくなります。たとえば、福田氏の支持率低迷に不満を漏らす公明党と福田氏・麻生氏との間で、「改造してしばらくしても、支持率が○○%(35%くらい?)を回復しない場合、福田氏は解散をせずに辞職し、次に麻生氏に総裁を渡して総選挙を戦う」というような合意があるとすれば、何となく分かるような気がします。
 麻生氏も年齢的にこの1,2年が勝負所でしょうが、私の個人的評価としては、彼には総理を期待していません。

(2)伊吹財務相、与謝野経財相
 消費税増税と財政再建を急ぐ内閣だと判断した根拠は、このお二人(特に与謝野氏の)処遇です。国交相というピンと来ないポジションでもありましたが、谷垣氏も入閣しました。常識的には、この内閣で総選挙を行い、勝ったら「国民の信認を受けた」ということで、消費税率引き上げに向かうのでしょう。この点、今回の改造内閣の意味付けは明快だと思います。
 福田内閣発足当時から、消費税増税に全力を尽くすという姿勢を霞ヶ関(主に財務省に、でしょうか)に見せることで、やっと政権を維持しているという印象を持っていましたが、今回もその延長線上にあると感じます。
 景気・株式市場的には、(1)増税するのか?、(2)金融政策は緩和寄りか引き締め寄りか、(3)規制緩和に積極的か?、という辺りに改造内閣の評価を求めるでしょうが、与謝野氏が経財相で経済財政諮問会議を取り仕切るということは、(1)、(2)、(3)何れのポイントでも期待薄ということでしょう。
 しかし、理由は詳しく述べませんが、当面、消費税率を引き上げることは不要で且つ不適切でしょう(理由が気になる人は、ダイヤモンドオンラインやJMMの拙文を読んで下さい)。
 景気も株式市場も、内閣の顔ぶれよりはアメリカの経済次第だとはいえ、今回の顔ぶれは前途多難を予想させます。

(3)舛添厚労相留任
 年金、医療、労働行政、何れも重みのある大臣を一人充てたい重要テーマであり、厚労省を副総理格の元締めとして大臣クラスにそれぞれを担当させるという構想がしばらく前に報道されましたが、そうした形にはならないようです。
 率直に言って、目下の状況は、舛添氏の行政能力を超えているように思いますが、役所が一つなので大臣も一人、ということなのでしょうか。
 総選挙が後ズレして、来年度の予算案通過後ということになり、次期通常国会に今回の改造内閣で臨むことになると、ここがウィークポイントになりそうな感じです。

(4)高村外相留任
 最近の新聞報道によると、「竹島」について、米政府がこれを韓国領と認めるような態度を取っていますが、日本は外交的に何の手も打てないようです。洞爺湖サミットも、十分な成果が出たとは言い難いように思えます。
「米国の属国的な日本のポジションを考えると、誰が外務大臣でも、こんなものだよ」ということなのかも知れませんが、日本の国家的ステイタスを重視する人々は、ここしばらくの外交に納得しているのでしょうか。
 高村氏の留任は少し意外でした。
 
(5)町村官房長官留任
 留任人事で最も大きなサプライズは町村氏でした。党内力学的にはこういうことなのかもしれませんが、彼が留任すると、内閣の印象は刷新されません。「これで本当に衆院選が戦えるのか」という私のコメントの半分以上は町村氏の留任人事が背景です。

(6)「上げ潮派」あるいは小泉改革派の不採用
 与謝野氏と共に去就が注目されたのは、いわゆる「上げ潮派」の中川秀直元幹事長でした。入閣した場合、国会で女性スキャンダルを突かれる可能性が大きいだろうとの世評だったので、バランス上政調会長くらいで処遇するのかと思っていましたが、彼は、今回、閣僚からも党執行部からも外れました。これも福田内閣の増税による大きな政府路線を示す人事の一つでしょう。
 中川氏以外にも、いわゆる小泉チルドレンと称されるような男性・女性議員(政治家としてはそこそこにベテランですが、小池百合子氏も「オールド・チャイルド」とでも呼ぶべき同類のタレントでしょう)や、小泉内閣の「構造改革」に熱心だった議員が今回は全て外れているように見えます。
 さすがにこれだけはっきり外されると、民主党の前原氏のような人との連携も含めて、この集団が総選挙の前後に政界再編(要は分党活動のことですが)に動く可能性が大きくなってきたのではないでしょうか。
 今後民主党に何らかの失点(たとえば幹部の金銭絡みのスキャンダルなど)があって、同党が動揺した場合、小泉氏とその周辺が「チャンス有り」と見て、再編に動く可能性があるように思えます。彼らとしては、ある意味では、身軽で動きやすい状況になったのではないでしょうか。

(7)野田科学技術・消費者行政担当大臣
 郵政民営化反対論者だった野田氏が、「あらたな規制官庁」である消費者庁の担当大臣になったというのは、象徴的です。
 ところで、彼女は、郵政民営化について、現状ではどう考えているのでしょうか。福田内閣の方針も含めて、少し気になるところです。
 近い将来、上の(5)で述べたような政界再編になると、「私が自民党だ」と言っていた彼女の言葉が正しかったことになるのかも知れません。

(8)民主党の今後
 「次の総選挙は勝てそうだ」という見通しが支配的な間は、自民党の一部と連携した分党を辞さずと思う人も、政治交渉上の自分の価値を上げるために、しばらくおとなしくしていることでしょう。9月の代表選は、常識的に考えると、そう揉めることはないでしょう。
 また、今回の福田内閣の顔ぶれと総選挙で戦うことを考えると、民主党は、自然にアンチ増税・アンチ官僚の立場を取ることが出来るので、まずまず有利な立場に立っていると考えていいのではないでしょうか。もっとも、私も含めてですが、現時点での民主党の支持層は「取りあえず政権交代の支持者」であって、「継続的な民主党の支持者」ではないように思えます。
 但し、かつてのメール事件ほど無様でなくても、幹部のスキャンダルなど、ネガティブな事件が起きたときには、かなり脆い状態になることが予想されます。

 閣僚の一人一人について、私は詳しく知っている訳ではありませんし、政局通でもありません。コメント欄での、読者の皆さまからのご教示をお待ちしています。
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コメント
 
 
 
Unknown (平ちゃん)
2008-08-02 14:56:18
財政再建については、最近の一般消費者物価指数の上昇→長期金利上昇の可能性を考えると真剣に取り組まなければならない喫緊の課題になってくるのではと予感されるのですが。国債はまだしも地方債なんてどうなるんでしょうか?
それとも、リフレ派の主張のように、いずれ、物価上昇→景気回復→税増収となるのでしょうか?
 
 
 
資源インフレ下のデフレ経済 (山崎元)
2008-08-02 15:33:19
平ちゃん様

物価上昇→景気回復→税収増、と順調に行くかどうかは分かりません。

ただ、現在の物価上昇は輸入資源価格が中心であり、日本景気にはマイナスの影響であって、先般下方改定された政府見通しベースでも2008年度は実質1.3%成長に名目0.3%成長という、生産者にとっては強度のデフレといっていい状況です。

長期金利も1.5%近辺まで下がってきました。仕入れ価格が高騰していて、生産物価格が低下するのですから、ビジネスの資金需要が長期金利を押し上げるような可能性は、残念ながらありません。長期金利脅威論を説く財政再建論者は、いつどのようなときに長期金利が上昇し、かつそれが継続するのかを、もう少し考えてみるべきでしょう。

総合的に見ると、「財政再建が喫緊の課題だ」という話がたぶん「常識の嘘」の類でしょう。そもそも「財政再建」という言葉自体が巧妙なレッテル貼りなのかもしれません。詳しくは、たとえば、来週月曜日配信のJMMの拙稿をご一読下さい。

それで景気が回復して万事上手く行くとまで楽観はしていませんが、現状は、金融緩和+減税+規制緩和が、経済政策としては正解ではないでしょうか。

(私は「小さな政府」が好みなので、財政支出&公務員組織の拡大ではなく、減税を望みます。また、公務員が事業に絡まない純粋な所得移転的な社会保障はあってもいいでしょう)

もちろん永遠の継続ベースで見て、現在の財政に対する国民の受益と負担の比率は継続不可能ですが、ただちに均衡財政に持っていくのが得策ではないような感じがします。当面の財政再建論者は、「大きな政府」の土台となるファイナンスのために利用されているのではないでしょうか。
 
 
 
Unknown (平ちゃん)
2008-08-02 17:35:28
山崎様

ご丁寧なご回答有難うございました。

庶民感覚として今のような物価上昇が続いたとすると、低利の日本の国債、地方債の買い手はいるだろうかとの懸念、実感からの疑問でした(何か他の有利な金融商品を物色するのではとの懸念)。
資源価格高に起因する物価上昇であれば早晩、物価上昇→国際的に需要の急激な減退(金が資源国に集まるので商品、資源を買うに買えない)で資源価格の上昇が抑えられて、物価上昇も落ち着き、低利の国債にも「値頃」感が戻るとの感じなのでしょうか。

山崎様のご回答、ご解説も含めて改めて考えてみたいと思います。
どうもありがとうございました。
 
 
 
ひきこもり症候群 (覚醒Ⅲ)
2008-08-03 12:05:24
ある雑誌のインタビューで、ポール・サミエルソンMIT名誉教授は、「日本は、西洋の模倣で大成功を収めて世界第2位の経済大国になったが、同じ競争を今度は中国・インドから仕掛けられている。日本の強みが失われつつあるが、今度は、研究開発に注力して新しい製品やサービスを世界に供与すれば良い。・・云々」と述べておられるが私も全く同じ意見である。

大きな流れで見ると、1990年前後の共産主義政権崩壊の後で起こった、約18億人位の低賃金の人達が、8億人の比較的高賃金の市場に新規参入したことで発生している大環境変化に日本はどう適合していくかと言う基本的命題に対して日本としての解答を出すことが喫緊の政治的問題である。食糧高騰も、原油暴騰も、大環境変化の1部分でしかない。

国内的には、高齢者人口比率の歴史的未経験の高まり、少子化による人口減少、国民平均年齢の高齢化による消費の減退、などの大きな問題もありこの問題に対する解答も出さねばなりません。

その解答の1つは、サミエルソン名誉教授の話の類だと思うのですが、日本人の大多数は、それとは全く異なる国内の配分問題が最も大事だと錯覚してしまっているようです。それは、マスコミなどが(誰かの思惑の通り?)ミスリードしているのですが、国民はバブル崩壊後の不良債権問題を解決できたので外部環境適応問題は終わったと思い込んでいるのでしょう。

サミエルソン名誉教授は、非正規雇用問題に関しても「日本の賃金はこれからも下がり続けるでしょうが、昔のように全員正規雇用に戻ることはない。非正規雇用でも、雇用がないよりは良いでしょう。」と述べている。正否は別にして、要素価格均等化原理が働くのだから、日本の平均賃金はこれからもまだ下がるであろう。今までの賃金の下がり方が国民に均等でないところに非正規雇用者の低賃金が発生している訳で、非正規雇用の拡大と低賃金の問題は、正規雇用者の既得権確保から生じている問題であり、非正規雇用者の低賃金を根本的に解決したければ、正規雇用者の賃金の切り下げを飲ませる以外にないとかねがね私は言っている。

その問題を、○○員さんのように、経営者のモラルの問題にすり替えたり、最近は経営者達を悪徳人間として罵倒・批判しているのだが、それでは根本的に何も解決するところはないだろう。この頃はご自分の意見が政策として具現化するのを喜んで、自らを褒めてあげたいと発言をされているが、根本的解決策から程遠いので、恐らくは今具現化したことも、そう遠くない先に破綻するものと思われる。

前振りが長くなったが、今回の内閣改造人事を見ると、日本の環境変化に対しては殆ど答えを出す積りはなく、あったとしても環境への適合よりも、引篭もりを選択するのだろうと思う。

色々の識者のコメントを拝読して、一番秀逸だと思ったのは、冨山和彦氏の「将来の日本は私の祖父母が北米に移民せざるを得なかった80年前のように、貧しい国、食えない国になっていくであろう。」と言う1節である。この言葉以上に適切なコメントはないと思っている。
 
 
 
政治倫理は? (gonchan)
2008-08-04 08:41:43
はじめまして。山崎様のコメントは政治に経済にその他に切れ味あるので非常に参考になります(特にSWF)。
今回の内閣改造(という名の人事異動)で、伊吹さんってそんなに偉いのかと感心したひとりです。1年前は故松岡元農林大臣とともに政治資金の件で矢面に立っていた人なのに、自分の財布もろくに計算できない人が国家財政をつかさどるとは笑止千万だと感じました。

谷垣さんは、この資源インフレに対し、「高速道路が値下げの余地がある」という発言をされていますが、いまや民間団体となった高速道路に値下げを案じさせるとはどういうことか???

いつかは消費税上げるというのは、頭では理解しているんですが、物事けじめとか順番とかあるよなあって感じています。政治家で偉くなるためには、傷の一つや二つは勲章かもしれませんが、まず国家ビジョンを明確にしてから、何に支出を増やして、何を削るのか、結果的に税収がどれだけいるのか、という経営戦略的なものがなく、対処療法に終わる・・・。

枡添さん、大変だなあ、けど頑張ってほしい、おっしゃる通り、見殺し的な感もある。いずれにせよ、福田「課長」さん、いつまで総理やるのか。
 
 
 
自民党政権 (xtc4241)
2008-08-04 09:56:24
山崎さん
こんにちは(いま4日9:45ごろです)

福田さんは腹を決めたのではないかと思います。

本来の「自民党政権」でいこうと。
自民党は保守的な思考をベースに、リベラルのエキスを
取り入れるといった現実主義的政党だと思います。

その体制がいま悪いところばかり目立っている。
でも、それでいかざるを得ないと。

これがいまの時代に正しいのか、受けるのか、は2の次。
おそらく、ダメでしょう。
でも、それ以外の中途半端はますますダメでしょう。

山崎さんのいわれるとおり、これで民社党との違いが
鮮明でおもしろくなったな~と考えています。
 
 
 
失望 (ああ)
2008-08-08 07:00:46
ダイアモンドオンラインのマルチスコープを拝読しました。増税の香り、プンプンしますね。

同連載で山崎さんが指摘されている「基礎年金に対する国庫負担と消費税をリンクさせる考え方」も含めて、どうも「財政再建という大目標があるし、社会保障費も増大するから増税はやむを得ない」という方向に世論を誘導せんとするような報道や論評が目立つように思います。

(参考までに)
http://www.j-cast.com/2007/10/19012406.html
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/economy/question_answer497.html

福田首相が「機熟せり」と判断したかどうかは分りませんが、本当にやるつもりなんでしょうか?

一方で消費者庁の創設など、大衆迎合的なことを多くするようになりました(実際はほとんどの人が不必要だと感じていると思いますが)。首相自らが「安心実現内閣」などと言うのもそう(はっきりいって滑稽)。5つの安心プラン、などあからさま過ぎて嫌になるような選挙対策を平気でやっています。

そういった意味でも、今回の改造内閣はまさに完全なる選挙シフトで、麻生氏の幹事長起用も選挙の顔として、という意味合いが明確です。そして上潮派改革派が一掃されていることから鑑みると、党内的には「小泉以前の旧来型の自民党政治路線で一致団結して選挙に臨もう」という意思表示のような気がします。

今の政治=行政は、一部で国民におもねるような選挙対策用の政策を小出しにしながら、彼ら自身の既得権益を維持拡大を図るべく、増税を規定路線とせんとする意思が見て取れます。マスメディアもそうした権力に迎合しているように思います。

このままでは、日本がヤバイ、と本気で思います。
 
 
 
記事 (もいとん)
2009-04-13 13:11:35
まあまあかな
 
 
 
replica handbags (knockoff handbags)
2011-11-21 22:17:10
遅ればせながら山崎さんのブログを初めて読ませていただいております。

 転職関係の内容の物も含め、貴方の著書は数冊読ませて頂いておりそのお人となりに以前より非常に興味を抱いておりました。

 そこで唐突で恐縮ですが「貴方は本当に男らしい方だ」と思いました。そう思った理由はいろいろあるのでいちいち書きませんが絶対にそう思います。

 これからも応援していますので是非ご活躍のほどを。p;iup
 
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