北本祐子
フリーエディター&ライター。1975年,大阪生まれ,立命館大学産業社会部卒業。リクルート,日経BP,ソフトバンククリエイティブ,ITmediaなどを経て,2007年よりフリーに。IT(情報技術)系のビジネスインタビューから,インテリア,ファッション,映画レビューなど,様々なテーマで取材・執筆を手掛ける。

 かつて“生活を変えた”製品の開発者を今訪ね,その開発の実際を知る本連載「あの製品を訪ねて」。第2回の今回は,デジタルカメラを取り上げることにした。この10年で,もっとも普及した電子製品の一つといえる。旅行や行事にデジタルカメラを持って行くことは,いつの間にか当たり前になった。

 悩んだのは,次々と登場したデジタルカメラの,どの製品を取り上げるかである。歴史的には1994年発表のQV-10(カシオ計算機)が妥当だろう。当時のガジェット好きに訴求したモデルといえば1999年のCOOLPIX950(ニコン)が思い出される。QV-10以前にも電子的に静止画像を記録するカメラ製品はあったし,COOLPIX950のほかにもガジェット好きに訴える製品もあった。

 本連載を始めるときに決めていたことが一つある。タイトルに掲げる「あの製品」には,技術的に先行した製品よりも,市場でブレイクした製品を選ぶことだ。デジタルなアイテムが好きなマニアの領域を飛び越え,ふつうの人が,ふつうに持ち歩くことを意識した最初のデジカメ---筆者らが選んだのは,2000年5月に発売された,キヤノンのIXY DIGITALである(写真1)。


写真1●キヤノン「IXY DIGITAL」。7万4800円(税別)
写真1●キヤノン「IXY DIGITAL」。2000年5月発売。7万4800円(税別)

 最大の特徴は,小型だったこと。寸法は幅87mm,高さ57mm,厚さ26.9mm。電池と記録メディアを含めた撮影時重量は約230グラムで,光学2倍ズームのレンズと,有効画素約202万ピクセルの1/2.7型CCDを備える。当時の実売価格は5万9800円だった。

 ふつうの人がふつうのカメラとして使う現実味を,初めて備えたデジカメといえる。中田英寿氏を起用した広告展開を覚えている読者も少なくないだろう。本製品以降,デジカメにとって「小型」は当然のキーワードになった。発売当初から人気を集め,約100万台売れた。

 本製品はいかなる開発の結果生まれたものなのか。東京都大田区,東急下丸子駅から徒歩15分ほどのところにあるキヤノン本社を訪ねた(写真2)。


写真2●キヤノン本社。広大な敷地は大学のキャンパスのような雰囲気
写真2●キヤノン本社。広大な敷地は大学のキャンパスのような雰囲気