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ITAKURASTYLE「借金が無ければ金利上昇のダメージを受けない?!」

6月25日付け日本経済新聞朝刊一面トップに、「上場企業4割実質無借金」という見出しの記事があります。
事実については、なんらコメントする必要はありませんが、小見出しと本文の一部に、「金利上昇には抵抗力」という、極めてファイナンス、しいては企業価値についての理解に欠けた「分析」があります。
これ、明らかに間違いです。
(最近、この手の資本コストに関する誤った理解の下の発言がメディアが伝えるケースが多いです。)

金利上昇によって上昇する資本コストは、有利子負債コスト(←つまり金利)だけではありません。
金利が上昇すれば、株主資本コストも同様に上昇します。

したがって、仮に無借金、または純有利子負債(=有利子負債-余剰現金)ゼロの場合でも、株主資本コストが金利上昇分上昇するので、企業価値は、その資本コスト上昇分下落します。

有利子負債コスト(金利)=リスクフリーレート+デット・リスク・プレミアム
株主資本コスト=リスクフリーレート+マーケット・リスク・プレミアム(*β)

ですから、どちらの資本コストにもその「底上げ分」として、リスクフリーレートがあるわけです。
リスクフリーレートとは、一般的に、「長期国債利回り」のことですから、金利上昇(=長期国債利回り上昇=国債価格下落)の場合、有利子負債コストも上昇しますが、同時に株主資本コストも上昇します。

確かに、株主資本コストが上昇しても、有利子負債コストの上昇のように「キャッシュアウト増」を伴うわけではありませんから、株主資本コストの上昇は、「わかりにくい」のは事実です。
株主資本コストの上昇は、「時価総額の下落」として現れるわけです。

金利が上昇して、その影響を受けない企業など、有利子負債が全く無い場合も含め、ありません。

もう少し説明します・・・

話をわかりやすくするために、極端な例を用います・・・

リスクフリーレートが現在のように2%前後であるときに、株式投資によって年平均複利利回り(CAGR)7%の利回りを得ていた投資家が居たとします。
この投資家は、リスクフリーレートに対する個別企業のプレミアム5%(=「マーケットリスク7%」-「リスクフリーレート2%」)に満足していたとします。
しかしその後、金利が上昇し、リスクフリーレートが10%になったとしましょう。
(↑ この部分が極端な例です)
このとき、この投資家は、それまでのように、国債への投資より遥かにリスクの高い株式投資による年率7%の利回りに満足するでしょうか?

満足するわけ無いですよね。
何せ国債利回りより低いリターンで、国債への投資より遥かにリスクの高い株式投資をするわけがありません。
この場合、少なくともリスクフリーレート以上の利回りが得られる程度まで、株価が下落し調整されます。

株価が下落することによって、(フリーキャッシュフローが一定の場合)投資家の利回りは増加します。
株式投資による利回りが、少なくとも「リスクフリーレート+マーケットリスクプレミアム」になるまで、株価は下落するというわけです。

以上が株主資本コストの上昇による株価下落のメカニズムです。

債券利回りと債券価格の逆相関に良く似ていますが、似ているどころか、本質的には全く同じメカニズムです。
一定の将来キャッシュフローを担保にした投資活動であれば、それが債券であれ、不動産であれ、株式であれ、基本的なメカニズムは同じです。

(ただし、成長を伴うインフレの結果の金利上昇であれば、一般的に企業は資本コストも含めたあらゆるコスト増を商品価格に転嫁できますから、フリーキャッシュフローも増加します。フリーキャッシュフローの増加分が、資本コスト上昇を上回る場合、株価は上昇する傾向にあります。
しかし現在のインフレは、成長を伴うインフレではないですよね。スタグフレーション的な、インフレ+金利上昇ですから、金利上昇による資本コスト上昇および原材料価格インフレの分、『無借金であっても』株価が下落して当然です。)

また、

「その場合でも有利子負債が無いことのほうがダメージが少ない」

という分析も明らかに間違っています。

有利子負債コストは、税制上課税所得を減らせる「タックス・シールド」の効果がありますが、株主資本コストは、課税所得から控除されません。
したがって、有利子負債コスト増以上に、株主資本コスト増が企業価値に与えるインパクトは大きい(=株価下落)わけです。

以上から、「有利子負債が少ない方が、金利上昇の影響を受けずらい」という分析は、明らかに間違いです。

2008年6月27日 板倉雄一郎

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