グーグルが本当に怖い理由 〔補完財の戦略的価値) | カフェメトロポリス

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ITについて鋭い批評を続けている、経営理論家のニコラス・カーのブログが面白かった。




経済学における補完財という概念を使って、昨今のIT企業の戦略を説明した、

補完財の戦略的価値というコラムだ。原文のURLもはってあるので、興味のある方はどうぞ。




http://www.nicholasgcarr.com/digital_renderings/archives/the_strategic_value.shtml  




補完財とは他の商品と一緒に利用される商品のことだ。珈琲と砂糖、映画とポップコーン。材木と線路、PCとデジカメなどなど。




一つの製品の供給を増やすか、価格を下げると、補完財への需要は上昇する。



例えば、電気料金を下げると、掃除機の売上が増加する。




最近気になる商品としては、ガソリンと自動車、高速道路のようなものか。



ガソリン代が上がると、車の売上が落ち、高速道路の利用率が落ちる。でもエコカーなどは、ガソリン代が上がると売上が伸びるのかもしれない。




カーのコラムは、1900年に家業のゴム事業の将来を見据えて、若きミシュラン兄弟が採用した驚天動地の戦略、ミシュランガイドの出版という事例から話が始まる。




当時、ゴム事業が頭打ちになってきたので、ゴムそのものから、ゴム製品への事業シフトを構想していた二人は、その頃、まだまだ一部の好事家しか買わなかった自動車に眼をつけた。自動車にとって不可欠のゴムタイヤの売上を伸ばすためには、自動車の売上が伸びなければならない。その意味で自動車とタイヤは補完財の関係にあるのだ。




ミシュランの発想は凄い。自動車の売上を伸ばすには、自動車を使うことの用途を拡大しようとしたのだ。具体的には今年、東京版が出て一時期話題になったあのレッドブックを出版したのだ。ガソリンスタンド、レストランなどドライバーにとって有用な情報を満載したガイドブックだ。




現代の経営コンサルタントからは、間違いなく一斉放火を受ける行動だろうと、ニコラス・カーは皮肉っている。たしかにゴム事業というコアからはかけはなれた事業だ。




しかし多角化は天才のみが理解できる技なのだ。




ITの世界でも似たような戦略が採用された。インテルがWi-Fiネットワーキング市場で取った戦略がまさにそうだとカーは言う。1990年末に、PCWi-FI接続用の半導体の最大のメーカーはIntersilという小さな企業だった。




ところがWi-Fi接続が人気化したため、Intersilは一挙にインテルのライバル企業となった。インテルからすると、自社のPCのチップセットでの支配を脅かす存在だったわけだ。これに対してインテルはCentrinoという極めて低価格のWi-Fiチップを導入した。販売価格は、原価割れの赤字覚悟の販売だった。でも、この価格急落によってIntersilの事業はすぐに崩壊した。




インテルがCentrinoを損失覚悟で販売できたのは、Wi-Fiがそのコアであるマイクロプロセッサ事業の補完財だったからだと彼は言う。Wi-Fiのサービスが低コストになれば、消費者がラップトップコンピュータを買うことを促進する。こうしてデスクトップよりはるかに利益率の高いラップトップ用のマイクロチップの売上が伸びたのである。




似たようなことは、オープンソースソフトウェアの世界でも生じた。IBMが数年前にオープンソースソフトウェアの代表格であるリナックスが自社のITサービス事業の補完財であることに気づいたのだ。




つまりリナックスを導入したユーザーは、そのサーバやストレージに対する信頼できるパートナーのアドバイスやメンテナンスを必要とするようになるからである。




さらにリナックスを応援することで、マイクロソフトやサンマイクロなどのライバル企業の主要製品であるOSをリナックスに代替させることで叩くというメリットもあったのだ。




最近ではアプリケーションソフトの大手SAPが、強力なライバルであるオラクルのデータベースソフトから顧客を奪うために、オープンソースのMySQLデータベースを奨励したのが同じような戦術だ。




グーグルの戦略の中核にあるのも補完財におけるイノベーションだ。




グーグルのコアビジネスはインターネット広告の販売なので、ブログ、ビデオ、オンラインビジネスソフトなど、人々のインターネットの利用を増加させることはすべて、彼らのコアビジネスにとって補完財なのだ。




そのためこういった製品を無料で提供したり、価格をどんどん切り下げることは、グーグルのコア事業にとって大きなメリットがあるのだ。




だからこそ、eBay, マイクロソフト、ベライゾン、バイアコムなどにとってグーグルが心底恐ろしいのだとカーは言う。




グーグルのこの戦略にも限界はある。簡単にいうと、回収できる以上のコストをかけるとこの補完財戦略は成立しない。グーグルが20062月に投資家が予想する以上にコストが増大していることを発表した際に株価が急落したのがその証拠だ。ものにはバランスが必要なのである。




言われてみれば、その通りということばかりだが、なるほどと思わされた。頭のいい人が使う経済学的枠組みの良い点はこういうところにあるんだな。