とうもろこし価格の高騰理由を考えてみる

2008年06月16日 08:00

とうもろこしイメージ先に【とうもろこしの生産・消費動向をグラフ化してみる】で触れたように、食糧としてのとうもろこしの需給関係からだけでは現状の価格高騰が説明しにくい件について、色々と裏づけのデータを取ってグラフ化して考える素材を作ってみた。とうもろこしは連作できないことやリスクヘッジの問題から、単純に需給関係の問題ではないという意見も後ほどいただいたが、他の作物についてもさほど事情は変わらない。また、それらの問題はとうもろこしが食糧として用いられるようになってから、あるいは先物市場が登場してから存在していたわけで、「昨今」の価格上昇と直接結びつけることは難しい。そこで、最初の「需給問題」に立ち返って、高騰の理由を考えてみることにした。

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通常の需給を超えた高価格!?

そもそもとうもろこしの価格高騰について考えを巡らせるようになったのは、さる場所で次のような意見を目にしたのがきっかけ。

とうもろこしの価格が急上昇しているが、このまま上昇を続けると
いつかは人々が買わなくなったり、酪農や牧畜業を廃業したり、
エサを別のものに替えるなどして需要と供給が逆転して、価格が下落するはずなんだけど……


いわれてみれば確かにその通り。しかし現状ではその気配すら見えない。なぜだろう。

需給モデルを設定して考える

分かりやすくするため、特定のとうもろこし市場を設定する。とうもろこし農家は1人で毎年2単位のとうもろこしを生産。買い手(消費者)は2人で、それぞれ1単位ずつのとうもろこしを必要とする。そして出せるお金はそれぞれ10ドル・20ドルまで。

農家が1単位10ドルで提供しようとすれば、両方の買い手が問題なく購入できる。それぞれの買い手は1つあれば十分なので2つも買おうとはしない。

とうもろこしの売価が10ドルならば、両方の買い手が必要量を購入できる。
とうもろこしの売価が10ドルならば、両方の買い手が必要量を購入できる。

ところが農家が「来年からうちの子供も大学に入るし、耕運機も買い換えねばならないし、ちょっと物入りだな」といった理由でとうもろこしの値を上げたとする。分かりやすいように20ドルへ。すると、買い手のうちの一人は予算が10ドルしかないので手が出せなくなる。もう一人の買い手はしぶしぶながらももう10ドル積み上げてとうもろこしを購入。この市場には二人しか買い手がいない設定なので、1単位のとうもろこしは売れ残ることになる。

とうもろこしを値上げすると、費用が不足して購入できない買い手が出てくる。
とうもろこしを値上げすると、費用が不足して購入できない買い手が出てくる。

このままでは農家の手取りは変わらなくなってしまう。実際には半年くらい経ってから売れ残りを安値で販売するとか、買い手が「どうしても欲しいから半分だけください」とばかりに10ドルで0.5単位だけ購入することになるだろう。売り手・買い手の駆け引きとなるわけだ。

これがさらに農家側が30ドルに値上げしたとする(亭主が高級車でも買いたいと思ったとしよう)。すると、買い付け予算20ドルの買い手も手が出せなくなり、この「とうもろこし市場」において誰もとうもろこしを買う人がいなくなってしまう。農家には作ったとうもろこしがすべて残ることになる。

さらに値上げすると、買い手は誰も手が出せなくなる。
さらに値上げすると、買い手は誰も手が出せなくなる。

こちらも実際には20ドルまで出せる買い手が「とうもろこしが無いと事業が立ち行かなくなる」とばかりに、20ドルで買える分だけ(0.67単位)を購入するなり、割引を待つなりするだろう。しかしこの「とうもろこし市場」ではとうもろこしがだぶつき気味になる。

このままではとうもろこし農家も立ち行かなくなるので、しぶしぶ値を下げ、買い手が購入できる価格まで値を下げる必要が出てくる。

かくして、需給関係に基づいた価格設定の場合、(1)~(3)の間を行き来しながら値動きが行われ、価格も変動していく。「神の見えざる手」とはまさにこのことをいう。

ちなみに仮に不作でとうもろこしが1単位しか作れなかった場合、農家はもちろん高値をつける方に売るから、20ドルまで出せる買い手がとうもろこしを手にすることになる。

別次元の高値買い付け人、あらわる

先の意見の通りなら、現状は(3)に近い事態で、とうもろこし農家も「買い手がなかなか買えなくなるな」と判断し、値を下げてくるはず。だが実際にはそうにはならない。少なくともとうもろこしのやりとり(需給)が、この「とうもろこし市場」の中だけで行われるならば。

しかし現状では、非常に大雑把なモデルだが、次のような状況下にあると言ってよいだろう。

値上げした価格で買い取っても十分利益が出る市場「石油(バイオエタノール)市場」が外から現れ、買い取けを受けている状態。
値上げした価格で買い取っても十分利益が出る市場「石油(バイオエタノール)市場」が外から現れ、買い取けを受けている状態。

石油価格が高騰しているため、それの代替燃料となるバイオエタノールもニーズが高まり、価格が上昇。「とうもろこし市場内部」では誰も買い取ってくれないような高値でも、「外からやってきた(石油市場)の買い手」にとっては、とうもろこしは(食材ではなく)「安値のバイオエタノールの原材料」に見える。これは買わない手はない、ということで片っ端から買われてしまう。農家としても収益が跳ね上がるのだから、使い道が食材だろうと燃料の原料だろうと、売らない手はない。

かくして仮に設定された「とうもろこし市場」において、買い手は外からやってきた買い付け人の大盤振る舞い(とはいえ彼らにしてみれば十分安値)に驚き、そして手が出せなくなり、買い付けをあきらめざるを得なくなってしまう。

石油の需給関係に左右されるとうもろこし市場

このあとはどうなるのだろうか。とうもろこし農家としても「とうもろこし市場」内の買い手との義理・人情・契約などがあるだろうから、まったく売らないわけにはいかないだろう。さらに外からの買い付け人こと「石油市場」がずっと買い続けてくれる保証はなく、保険のためにも販売ルートを複数確保する点で、これまでの買い手にもそれなりの価格で売ることになる。

しかし黙っていてもはるかな高値で買ってくれる「石油市場」側の買い手が上得意様になることは間違いない。なにしろ、「とうもろこし市場」の買い手が手渡す代金も、「石油市場」の代金も、同じ現金に違いはないのだから。

とうもろこし市場動向イメージ例えばこのモデルでバイオエタノール(≒石油)価格が30ドルにまで下がれば、石油市場の買い付け人はそれ以下で買わないと利益が出ないから、とうもろこし農家の「30ドル」という値段設定では買い付けを行わなくなる。つまり、石油価格が下がることで、とうもろこしは本来の「とうもろこし市場」内だけの取引が行われるようになり、通常の需給関係に基づいた価格の変動が見られるようになる。

だが大まかに考えれば、近々で原油価格が下がる状況には無い。今回想定した需給モデルのように、「盤外からやってきた(とうもろこしの需給関係とは関係のない)高値買い付け人が買いあさる」状態が続き、とうもろこしの価格は高止まり傾向も続く、と考えて良い。

そしてとうもろこしの価格が上がれば、従来の市場内における買い手が作り出すもの、例えばシリアル類や豚肉・牛肉(飼料として用いる)などの高騰も続く。さらにとうもろこし業者が「高値で売れるから」とばかりに他の農作物の生産もかなぐり捨ててとうもろこし生産に集中すれば、相対的に他の穀物の生産量は減り、それらの価格も上昇することになる。


実際には最初に指摘されていたように、先物市場の存在や連作が出来ないことによる在庫調整の問題、市場が世界規模であること、すべてのとうもろこしが食用・バイオエタノール用の両用というわけではないことを考慮しなければならない。さらにとうもろこし市場内でもある程度「余計に買い込む」場合や、貯蔵したり貯蔵分を放出して流通量を調整するなど、このような単純な需給モデルとは異なる部分も多い。とはいえ、大まかな流れはこのようなものだろう。

この図式は江戸末期に日本の金銀の交換レート騒動に似ている。当時、日本国内では金と銀の交換比率が1対5だったのに対し海外では1対15だった。そのため外国人がこぞって日本国内で銀と金を交換し、大量の金が日本から流出してしまった(そりゃそうだ。日本で銀5キロと金1キロを交換し、自国に戻って銀に交換すれば15キロになる。あっという間に資産が3倍に増えるのだ)。当然日本国内の経済は大混乱に陥ってしまう。

今の「とうもろこし市場」は、まさにこの幕末の日本経済のそれに近い状態にあるのかもしれない。


■関連記事:
【ジュースの値上げ、非遺伝子組み換え食品の調達難~バイオエタノールの功罪】

(最終更新:2013/08/05)

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