A Return of That '70s Show? by PAUL KRUGMAN

虹の向こうのどこかにあるというはてな村では「鳥味のケーキ」とか「夢をかなえるかわいそうなゾウ」とかの話で盛り上がってたみたいですけど、こちらは淡々と行きますよええ。

で、某いちご方面で示唆があったのでクルーグマンのNYTimesのコラム(アカウント(無料でとれますけど)がない方はGoogle News経由でどうぞ)を訳してみますた。今回は山形風訳にチャレンジです(笑)*1。例によって変なところがあれば教えていただけると嬉しいです。ではどうぞー。


70年代の逆襲?


A Return of That '70s Show?
By PAUL KRUGMAN
Published: June 2, 2008
http://www.nytimes.com/2008/06/02/opinion/02krugman.html



結局、今の状況に近いのは何年代なんだろうね?


ちょっと前までは、誰もがこの金融市場の修羅場を、1930年代とのおぞましい関連で見ていたみたい。


でも今回、FRBベン・バーナンキとその仲間たちは、彼らの先代たちが1930〜31年にかけての金融危機のときにやりそこなったことをやってのけた。彼らは、金融システムの崩壊を回避するよう強力に動いたんだ。で、その努力は、今のところ報われてるみたい。まだ金融市場は正常とはいい難い状態だけど、でもこの数ヶ月、動揺は徐々に落ち着いてきている。


そこで、君はこう考えるかもしれない。みんな、バーナンキ氏とその仲間たちの素晴らしい仕事を祝福してるんだろうね、と。でも、僕が最近参加した経済会議では、多くの参加者たち――政策方面に大きな影響力を持ってる人たちも含まれてる――は、バーナンキたちを激しく非難しているみたいなんだ。


つまり、1930年代型の金融破綻の恐怖はどうやら去ったけれど、かわりに1970年代型のスタグフレーションの恐怖がやってきちゃった、ってわけ。で、FRBはインフレに弱腰なのを非難されてるんだ。


僕がそこで聞いたことから察するに、最近浮上してきた世論は、バーナンキ氏は最初っから間違った敵と闘っていた、というものだ。つまり、金融崩壊じゃなくてインフレーションが本当の脅威なんだと。で、その脅威を回避するためには、批判者たちによれば、FRBはその針路を反転して金利を上げるべきなんだって――リセッションのリスクなんか気にせずに。


ここらがこの新しい世論は全然間違っている、と断言しとくのにいい頃合だろう。僕らは70年代のショーの再演を見てるんじゃない――で、こうした見当違いの信念は多くの被害をもたらしかねないんだ。


確かに、石油やその他の原材料価格の急上昇が、生活費の上昇を通じて人々を苦しめてはいる。でも今回は、石油価格の上昇による一時的なショックがしつこい高インフレに変化した1970年代とは違って、賃金と物価の連鎖的上昇の兆候はかけらもないんだよ。


昔はどうだったのか、例を挙げてみよう。1981年の5月、統一鉱山労働者組合は炭鉱事業者と、今後3年間に亘っての賃金上昇率を平均して11パーセントに固定する契約にサインした。この組合は、1970年代後半の二桁のインフレが今後も続くと予想したので、こんな大きな賃金の引き上げを要求したんだ。一方、炭鉱のオーナーたちは、その前の3年間で40パーセントも値上がりしていた石炭が、将来も大きく値上がりすると予想していたので、組合の要求に応える余裕があると考えたんだ。


当時は、この炭鉱労働者たちの合意はちっとも変じゃなかった。多くの労働者たちは似たような契約を取り付けていた。労働者と雇用者は、実際のところ、馬跳び競走を演じてたんだ。つまり、労働者たちはインフレに取り残されないように大きな賃金上昇を望んで、企業側はその高い賃金を価格に転嫁して、で、価格上昇は再び賃金上昇の要求を招いて、以下繰り返し。


いったんこんな感じの自律的なインフレ過程が軌道に乗ってしまうと、止めるのがとても難しくなる。現に、この1970年代の遺産であるインフレを退治するためには、1930年代以来最悪のまったく酷いリセッションが必要だったんだ。


でも、さっき言ったように、今回は賃金と物価の連鎖的上昇は見られない。


インフレタカ派の皆さんは、消費者たちがこの十年間で初めて、今後1年間に急速な物価上昇を予想していると世論調査員に語ったことを指摘している。うん、まったくその通り。


でもさ、組合の年間11パーセントの賃金引き上げ要求はどこにいっちゃったの?(ていうかそもそも組合はどこ?)。確かに消費者はインフレを心配しているけど、でも賃上げを要求している労働者や、ましてやそれを受け入れるつもりのある雇用者を見つけようとしたら、徹底的に探し回る必要があるよ。むしろ、雇用状況が悪化したおかげで、賃金の上昇は実際には減速してるみたいなんだ。


で、賃金と物価の連鎖的上昇が見られないんだから、僕らは高い金利でインフレーションを抑制する必要もない。コモディティ価格の急騰が安定したときには――需要と供給の法則が無効になったことはないから、いつかはそうなる――インフレーションは自然に沈静化するだろう。


それでも、インフレ抑制への追加の保険として、ちょびっとだけ金利を上げるのはどうだろう、って?


答えの一部としては、もし金利が上がることで今よりもマネーが高価になったら、現在沈静化しているように見える金融危機が再燃するかもしれない、ということがある。


で、たとえ金融危機が再燃しなくても、高い金利は既に弱い実体経済を更に弱めてしまうだろう。僕たちが理論的にリセッションに陥っているかどうかなんてことはどうでもいい。ほとんどの人はリセッションだと感じてて、で、高い金利はそれを悪化させるだけなんだ。


結論としては、高いガソリンや食料はアメリカの家庭に実質的な害を負わせているけれども、それでも1970年代型のインフレスパイラルには至っていない。僕たちがこの方面で恐れなければならない唯一のものは、不景気を更に悪化させるような政策を導くかもしれない、インフレへの恐れそのものなんだ。

【かいせつのようなもの】

確かにこれは「世界はスタグフ(略)」とかいってる人たちに付けるには良い薬かも。スタグフレーション、というかそれ以前にひどくしつこいインフレだって、賃金の持続的な上昇が必ず観察される、って事実を忘れちゃいかんです。

米国ですらこうなんだから、「日本はスタグf(略)」とかいってる人たちには、ってもう付ける薬ないかもねえ。わはは。いいからコアコアCPIとGDPデフレータだけ見とけと小1時間ですよ。あ、CPIバイアスも考慮してね(はあと)。

なお言わずもがなですが、金利というのは要するにおカネの値段なわけです。で、金融危機っていうのは、みんな疑心暗鬼になって誰もおカネを貸したくなくなっちゃった状態。

「予防的利上げ」(またの名を「ふぉわーどるっきんぐ」w)に対するクルーグマンの見解は、ようやく疑心暗鬼が和らいでおカネが回りだしたのに、わざわざその値段を上げて流通を絞るなんて狂気の沙汰だよね、というもの。激しく同意です。

しかしここでのクルーグマンの結論は中々味わい深いものがあります。日本の90年代以降の長期停滞は、一言で言えば、過剰なまでの「インフレへの恐れ」がもたらしたものだ、と言っちゃって良いんじゃないかなあ。

まああとは「財政均衡への近視眼的な執着」とか「財務省の中の人の長期金利と政府負債に関する誤解」とか「強い円信仰(笑)」とか、色々あるけど。南無南無。

ちなみに、原文タイトルの「That '70s Show」ってのはこれのことみたい。最初何かと思っちゃった。このままじゃわけわからんので結局シンプルに「70年代の逆襲?」としてみました。こういうのってどうしたらいいんだろ。

なお次回は今更ですが例のスティグリッツ論説を訳す予定です。というかもう半分くらいできてる。今更杉ですかそうですか。ああ翻訳だけやって食っていくことはできなものか知らん【寝言は寝てからsvnseeds】。では皆さんごきげんよう

*1:確かにクルーグマンはかなりくだけた口調なんでこういった訳の方があっているように思う。でも実際やってみるとすごく難しい!やっぱり山形さんはすごい。