(主に)貧困国での食糧(価格高騰)危機が議論されています。
バイオエタノール産出のために穀物が消費されることが食糧価格高騰の原因だと主張する国もあれば、投機資金によって食糧(主に穀物)価格が高騰していると主張される方もいます。
確かに、短期の相場では、投機によって大きく価格が変動しますが、中長期的には「実態受給」が価格のトレンドを決めますから、仮に投機マネーが穀物価格高騰の原因の一つだったとしても・・・。
1、温暖化による気候変動によって農作物の生産性が落ちる可能性
2、(主に)新興国など経済成長が著しい国の生活水準が上昇し、
食糧需要が増加する可能性
(穀物をそのまま食糧として摂取する場合と、穀物を牛や豚などを経由して食料として摂取する場合とでは、カロリー効率が数十倍違います)
などを考慮すれば、中長期的な食糧価格トレンドは、上昇傾向にあると考えられます。
さて、食糧価格が高騰を続けた場合、「国単位」で経済的なメリットを享受するのはどの国でしょうか?
こ
こ
は
考
え
る
時
間
で
す。
これは言わずもがな「食糧純輸出国」(≒食糧自給率が100%以上の国)ですよね。
中でもアメリカ合衆国は、世界一の農業大国です。
では、アメリカのビジネスモデルについて、少し考えて見ましょう。
ご存知の通りアメリカという国は、常に「貿易・経常赤字国」です。
総供給(= GDP + 輸入)= 総需要(= 国内総需要 + 輸出)
という基礎的な式において、常に「輸出 < 輸入」の状況なのがアメリカです。
簡単に表現すれば、アメリカ全体で海外に“売る金額”(輸出額)
よりも、海外から“買う金額”(輸入額)の方が大きいわけです。
よって、当たり前ですが経常赤字が続くわけです。
この赤字を「続けられる」ためには、「足りないお金」を海外から何らかの方法で調達しなければなりません。
企業のキャッシュフロー計算書に比喩(ひゆ)すれば、営業CFがマイナスの分、財務CF(又は投資CF)のプラス分でそれを補わなければならないわけです。
具体的には・・・( ()内は、企業の場合に比ゆした内容)
1、諸外国による米国債の購入
(↑ 財務CFのプラス分・・・有利子負債の増加)
2、米国企業への諸外国からの投資
(↑ 財務CFのプラス分・・・連結子会社の増資)
ということになります。
(ひとつの意見として「アメリカの最大のビジネスは戦争だ」との意見もありますが、「過去」においては、確かにそうであったと感じますが、「現在」においては、世界的な世論を前に、戦争は少なくとも過去に比べ、やりにくい状況になってきていますよね。
「イラク戦争」の本質的原因は、イラクが「ユーロ建ての原油輸出」を行おうとしたことに対しアメリカが腹を立てたということなのだろうと思いますが。。)
1については、アメリカへの資本流入というメリット以上に、諸外国から「金質(かねじち)」を取るというメリットも伴います。
2については、実に巧妙で、過去の歴史上でも、その時々に応じた「トレンド」を作り上げ、実態以上の価格の時点で海外からの投資を集め、後に、価格が実態に近づいたころ、再びアメリカ人が買い戻すという戦略を実現しています。
日本が「不動産バブル」に沸いていたとき、日本企業は、こぞってアメリカの不動産を買い漁りました。その後の日本のバブル崩壊によって、日本人がつり上げたアメリカ不動産の価格が下落したとき、アメリカ人が買い戻しています。
(ロックフェラータワーの買収とその後の売却は今でも記憶に新しいです。)
その後の「ITバブル」も、その一つの戦略の一例でしょう。
(NTTドコモによる「AT&T Wireless社」への投資などなど)
以上を企業のキャッシュフロー計算書に比喩(ひゆ)すれば、、
現時点の(ある期の)投資キャッシュフロープラス分と、
数年後の(ある期の)投資キャッシュフローマイナス分との「差」
(↑ 絶対値が前者より後者の方が小さい)という方法によって、
資本を“回収”しているというわけです。
読者の皆様もお分かりの通り、ここ最近では、いわゆる「サブプライムローン債権」なるものを混ぜ込んだ「証券化商品」を世界にばらまくこと(=財務キャッシュフローのプラス分)によって、アメリカへの資本流入を実現していました。
つまり、不動産バブルを作り上げ、諸外国から実態経済価値以上の価格での投資を呼び込んだというわけです。
2007年 8月以降、米の不動産バブルが崩壊したわけですが、バブルが崩壊せず、住宅ローン債券の元利払いが正常に実施されていれば、アメリカにとって「単なる借入れと、その後の元利返済」で終わったところですが、バブル崩壊によって生じた諸外国の(主に金融機関)の損失は、すなわち、アメリカの「実質的な儲け(ただし米の金融機関ももちろん損失していますが)」となっているわけです。
さて、万年赤字国のアメリカが打つ(戦争以外の)次の手は何でしょうか?
以上のような、「資本の流入」という財務キャッシュフローの増加。若しくは、もっと正常な「(対輸入の)輸出増加」という営業キャッシュフローの増加。
はたまた、アメリカ人の「消費抑制」という経費削減による営業キャッシュフローの増加の何れかの手を打つ必要があります。
「消費削減」・・・これ、彼らには無理でしょう(笑)
すると、現実的には、「資本流入戦略」、若しくは、「輸出増加」の何れかに絞られると思います。
以下は、僕による「EF(←エコノミック・フィクション)です・・・
ITバブル⇒不動産バブルときて、次は、恐らく「農産物」になるのではないかと思います。
当たり前の話ですが、アメリカが「得意」とする分野でなければ、そのバブルを演出、(資本流入を)実現することはできません。
ITの場合も諸外国に比べアメリカが最も得意とする分野でしたし、不動産バブルの演出手段である「金融」もアメリカの最も得意とする分野でした。
農産物・・・これも言うまでもなく、アメリカの最も得意とする分野の一つです。(この“得意”という表現は、アメリカが既得している人的、地理的リソースの優位性という意味です)
これまで以上に「食糧価格の高騰」が続くとなれば、アメリカの(広義での)農業関連ビジネスへの諸外国からの投資が増加する(=財務キャッシュフローのプラス分)でしょうし、結果的に農産物の輸出増と価格上昇による貿易収支の改善(=営業キャッシュフローのプラス分)も同時に実現するでしょう。
かくしてアメリカ経済は、ここ数年の間は、金融ショック⇒実体経済への悪影響が続くと思われますが、長期的には、したたかなアメリカという国の成長が続くと思うわけです。
※「バイオエタノール」による食糧価格高騰への影響度は意見の分かれるところですが、少なくとも価格を押し上げる要素には間違いありません。もしかしたら、アメリカの長期的戦略の布石なのかもしれません。
原油価格が高騰したって、「かなり厳しい生活にはなりますが」、死んでしまうわけではありません。
けれども、食糧が手に入らないとなれば、「こまったなぁ」では済まされないわけですよね。
そんな未来は、絶対に「ごめん」ですが、世界の食糧需要が上昇し、供給が伸び悩めば、いずれそんな未来がやってくることになると思います。
しかし、ネガティブなことばかりではないと思います。
原油価格が高止まり(又は長期に上昇すると予測すれば)、代替燃料の開発が促進され、結果として供給も増加することと同じように、食糧においても、効率的な生産方法の開発、気候変動にある程度耐えられる種子の開発などが今以上に現実的になるでしょう。
以上を鑑(かんが)み、皆さんが投資家として・・・
「だったら穀物相場に投資しよう」と思いますか?
それとも、
「だったら食糧生産性を向上させる技術に投資しよう」と思いますか?
僕なら、間違いなく、「後者」に投資します。
それこそ、社会に対する価値提供を伴うリターンが得られると思うからです。
言うまでもなく“GMO”に投資しようとは思いません。
あくまで、nonGMOの場合です。
(えっ?ここで言うGMOとは「Genetically Modified Organisms」のことですよ)
2008年6月4日 板倉雄一郎
PS:
本文の「EF(=エコノミック・フィクション)」は、あくまでフィクションですから、この考察・予測に基づいた投資による損害について責任を負いませんので、あしからず。
PS^2:
本文とは全く関係ありませんが、先日(6月1日)は、11年半連れ添った愛犬の一周忌でした。
いつまでも遺骨をそばに置いていても仕方がないので、彼が大好きだった千葉のとある場所に散骨しました。
こういう亡き者に対する行為というのは、常に、「生きている者のための行為」なのだと思います。
僕も、散骨という行為を通じて、彼と過ごした楽しい思い出を温存するとともに、彼を失った寂しさを忘れることができればという想いです。
今生きている、もう一匹のワンコ(スタンダードダックスフント、オス11歳半)と接する時間を大切にしたいと思う次第です。